鉄鋼

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現状

中国特需、再編効果で最高益更新へ

新日本製鉄大分製鉄所の転炉
新日本製鉄大分製鉄所の転炉
 

  日産自動車による大幅な値下げ要求などに端を発した未曾有の苦境を脱し、日本の鉄鋼業界は急回復を遂げている。
  1998年度、1999年度と1億トンの大台を割り込んだ粗鋼生産は、2003年度には1億1098万トンと13年ぶりに1億1000万トンの大台を超えるまで回復、2004年度も目下、フル生産が続いており、2年連続して1億1000万トンの大台を超える可能性が濃厚だ。業績面でも新日本製鉄JFEホールディングス住友金属工業神戸製鋼の4社を合わせた2004年度の連結経常利益は9000億円超と1989年度に記録した5776億円を大きく上回る見通しと、文字どおり絶好調という状況にある。

業界再編が進む

  急速に回復した要因の1つは、中国市場の成長、もう1つは再編が進み価格交渉力が強化されたことだ。

   中国の鉄鋼需要(見掛消費量、粗鋼生産+輸入-輸出)は、2001年に前年に比べて2割増の1億5340万トンとなったのに続いて2002年には1億8560万トン、2003年も2億3240万トンと急速に拡大。金融引き締めによる景気減速が懸念されている2004年も2億6000万トン超と高成長が見込まれている。
  一方、2000年以降、血で血を洗うような熾烈な価格競争に苦しむなか、NKKと川崎製鉄が2002年9月、持株会社のJFEホールディングス(2003年4月に傘下の会社を再編、鉄鋼部門はJFEスチールに)として統合。新日本製鉄、住友金属工業、神戸製鋼所の3社も2002年11月に相互出資を行うことで合意し、それまでの高炉メーカー5社体制から新日本製鉄、JFEホールディングスの2グループへと再編が進んだ。

価格交渉力が回復

新日本製鉄君津製鉄所の製品倉庫
新日本製鉄君津製鉄所の製品倉庫

  日本の鉄鋼業界は、1990年代後半から川上では鉄鉱石、原料炭など大手鉱山、川下では最大のユーザーである自動車業界の国際的な再編が進むなか、川上からの値上げ圧力、川下からの値下げ圧力によるサンドイッチ構造の下、地盤が低下してきていた。
  ところが、中国の成長をきっかけとする需給の逼迫、再編の効果によって2003年度には自動車用鋼板で5年ぶりに値上げを実現、2004年度も春、秋の2回にわたって価格改善を実現するなど価格交渉力を回復。成熟産業、あるいは衰退産業との烙印を払拭、「鉄の復権」に向けて1歩進み出している。

歴史

オイルショックを契機に成熟産業に

  日本の鉄鋼業界の歴史は、第2次大戦後から第1次オイルショックまでの成長期、オイルショック後からバブル時代までの成熟期、バブル崩壊後の試練期の3つの時代 に分けられる。 第2次大戦後、日本の鉄鋼業界は急速な高成長を遂げた。1945年度の粗鋼生産50万トンに対して、1950年度には10倍増の529万トンと戦前のレベルを回復、そして1973年度には1億2001万トンにまで拡大と急速な成長を実現している。こうした高成長の背景にはいくつか要因があった。
  需要面では、戦後の復興需要、続いては国内経済の高成長によって鉄鋼需要が拡大した。輸出の貢献も大きく、1969年には当時の西ドイツを抜いて世界最大の輸出国となっている。なかでも大きいのが、積極的な設備投資だ。

新日本製鉄八幡製鉄所(福岡県)の戸畑第4高炉
新日本製鉄八幡製鉄所(福岡県)の戸畑第4高炉

  戦後まもなくの間、高炉一貫メーカーは日本製鉄(後に八幡製鉄と富士製鉄に分割)と、日本鋼管(後にNKKに名称変更)だけだったが、1950年代に入って川崎製鉄、住友金属工業、神戸製鋼所が相次いで高炉に進出。60~70年代初めにかけて各社とも既存の製鉄所の増設のほか、八幡製鉄が君津、富士製鉄が大分、日本鋼管が、京浜、川崎製鉄が水島、住友金属工業が鹿島、神戸製鋼所が加古川と臨海部で大型製鉄所を新設、高成長の原動力となった。

高炉の休止が相次ぐ

  ところが、こうした高成長は71年のニクソンショック、73年のオイルショックを経て日本経済が高度成長期から安定成長期に入るとともに一変、成熟化の時代に入る。
  国内需要は安定成長となるとともに、高成長の原動力となっていた輸出は米国をはじめとして貿易摩擦が激化して伸び悩み、粗鋼生産は1973年度の1億2001万トンをピークとして頭打ちとなった。ただ、それでも一時期を除いて粗鋼生産は1億~1億1000万トンの高水準を維持できたうえ、70年に八幡製鉄と富士製鉄が合併して新日本製鉄が誕生したことをきっかけとして一種の協調体制が確立。安定した収益を維持し、リーディング産業の地位こそ自動車やエレクトロニクスに奪われたが、鉄鋼業としてそれなりのプレステージを維持することができた。 その後、大きな転機となったのが、1985年の円高ショックだ。急速な円高の進展によって、輸出市場では韓国に追い上げられたうえ、国内でも東京製鉄が高炉メーカーの牙城であったH型鋼でシェアを急拡大するなど電炉メーカーが急追。また、自動車、エレクトロニクスなど鉄鋼の主要ユーザーが海外シフトを強めたこともあって、高炉メーカーは本格的な合理化に迫られることになった。1987年、新日本製鉄が八幡、釜石、広畑、室蘭、堺の各製鉄所で高炉1基の休止を決定したのをはじめとして各社とも大規模な合理化に着手、1984年時点で65基あった高炉は1990年末には45基にまで減少している。

多角化に失敗する

  バブル崩壊からの約10年は、多角化と負の遺産の整理、ゴーンショックを端緒とする価格競争の激化という試練の時代となった。 バブル時代、粗鋼生産は内需の回復によって1990年度には1億1171万トンまで回復したが、バブル崩壊後の不況の中、92年には1億トンの大台割れを記録。その後、一時的には持ち直したものの、金融不況、アジア不況が深刻化した1998年には9097万トンと9000万トン割れ寸前まで減少している。一方、高炉メーカーはバブル時代から1990年代初めまで各社そろって半導体に進出するなど多角化に拍車をかけた。 ところが、1990年代の後半には多角化分野のほとんどが失敗に終わったうえ、1997年の金融不況をきっかけとして会計のグローバル化のなか、巨額の特別損失の計上に迫られた。

ゴーンショックが発生

  財務内容が悪化したうえに、2000年には日産自動車による鋼材調達先の絞り込みと大幅な値下げ要求などいわゆる「ゴーンショック」が発生、それまでの協調体制が崩壊し熾烈な価格競争に突入した。その結果、高炉メーカーの業績は大幅に悪化し、株価が一時、旧額面を割る会社も出るなど信用不安が広がる中、NKKと川崎製鉄が2001年4月、経営統合することで基本的に合意したのに続いて、2002年9月にはJFEホールディングスとして統合を実現。一方、新日本製鉄、住友金属工業、神戸製鋼所も2001年12月には鉄鋼需要の変動や国際競争力強化のため提携することで合意、2002年11月には相互出資を行っている。高炉メーカーは5社体制からJFEホールディングスと新日本製鉄グループの2グループ体制に移行することになった。

将来を展望するための3つのポイント

ポイント1
中国市場の動向

東京電力の富津火力発電所(千葉県)
東京電力の富津火力発電所(千葉県)

  今後を占ううえでもっとも大きな要因は、中国市場の動向だ。鉄鋼の需要は、1人当たりの需要が100キログラムを上回ると、国のインフラや乗用車、電化製品の普及によって急速に増加する傾向がある。日本では1950年代に100キログラム/人を上回り拡大期に入った。韓国も1970年代に100キログラム/人を超え、高成長を遂げている。中国の場合、100キログラム/人を上回ったのは1999年のことで、これから本格的な鉄鋼の普及期に入ることになる。しかも、2008年には北京オリンピック、そして2010年には上海万博というビッグプロジェクトが控えている。今後、多少の波はあっても基本的には右肩上がりの成長が続く可能性が高く、日本の鉄鋼業界にとっても大きなフォローウイングとなることが期待できる。

ポイント2
国際的な地位の低下防げるか

  その一方で、中国の成長による国際的な地位の低下というリスクがないわけではない。日本の鉄鋼業界は、1982年、米国を抜いて世界一の粗鋼生産国となった。1985年の円高ショック、1990年のバブル崩壊後も日本はその地位を維持していた。ところが、1998年には中国と逆転、その後も中国は成長を続け、2003年には2億2010万トンと日本の2倍にも達している。
  企業規模でみると、現在でも新日本製鉄は世界では欧州のアルセロールに次ぐ世界2位、JFEスチールも同4位と好位置をキープしている。しかし、中国企業の成長はめざましく、1990年には世界のトップ20社に1社もいなかったが、2003年には6位に上海宝鋼、19位に鞍山鋼鉄が登場している。しかも上海宝鋼は現在、新製鉄所の建設を進行中のうえ、他の中国高炉メーカー各社も相次いで新高炉の建設を表明している。さらには日本の最大のライバルと言われる韓国POSCOも増産計画を進めている。

ポイント3
高級鋼板など技術の優位保てるか

  中国などの増産投資によってもっとも影響を受けると見られるのは、棒鋼、型鋼 など建設関連だ。建設関連は北京オリンピック、上海万博など不動産投資の増大を背 景に,数年の間は高成長が続くことは確実だ。しかし、オリンピック、万博など ビッグプロジェクトが終了すれば、供給が需要を上回ることになる。中国が輸入国から 輸出国に転じるわけで,日本にも影響が及ぶことは確実だろう。

  一方、中国でも自動 車、電機などは建設向けとは異なり、ビッグプロジェクト終了後も生活水準が向上し、安定した伸びが期待できる。幸い、自動車用や電機向けなど高級鋼板では、 日本の高炉メーカーが技術面で一歩リードしている。自動車用では新日本製鉄が 米国ではイスパット社との合弁、欧州ではアルセロールと提携するなど世界3極での 供給体制を確立している。今後、規模の点で劣性となる可能性があるのか、日本の高 炉メーカーが国際的な地位をどのようにして維持していくのか、経営力が問われることになる。

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