将来を展望するための3つのポイント
ポイント1
中国市場の動向
東京電力の富津火力発電所(千葉県)
今後を占ううえでもっとも大きな要因は、中国市場の動向だ。鉄鋼の需要は、1人当たりの需要が100キログラムを上回ると、国のインフラや乗用車、電化製品の普及によって急速に増加する傾向がある。日本では1950年代に100キログラム/人を上回り拡大期に入った。韓国も1970年代に100キログラム/人を超え、高成長を遂げている。中国の場合、100キログラム/人を上回ったのは1999年のことで、これから本格的な鉄鋼の普及期に入ることになる。しかも、2008年には北京オリンピック、そして2010年には上海万博というビッグプロジェクトが控えている。今後、多少の波はあっても基本的には右肩上がりの成長が続く可能性が高く、日本の鉄鋼業界にとっても大きなフォローウイングとなることが期待できる。
ポイント2
国際的な地位の低下防げるか
その一方で、中国の成長による国際的な地位の低下というリスクがないわけではない。日本の鉄鋼業界は、1982年、米国を抜いて世界一の粗鋼生産国となった。1985年の円高ショック、1990年のバブル崩壊後も日本はその地位を維持していた。ところが、1998年には中国と逆転、その後も中国は成長を続け、2003年には2億2010万トンと日本の2倍にも達している。
企業規模でみると、現在でも新日本製鉄は世界では欧州のアルセロールに次ぐ世界2位、JFEスチールも同4位と好位置をキープしている。しかし、中国企業の成長はめざましく、1990年には世界のトップ20社に1社もいなかったが、2003年には6位に上海宝鋼、19位に鞍山鋼鉄が登場している。しかも上海宝鋼は現在、新製鉄所の建設を進行中のうえ、他の中国高炉メーカー各社も相次いで新高炉の建設を表明している。さらには日本の最大のライバルと言われる韓国POSCOも増産計画を進めている。
ポイント3
高級鋼板など技術の優位保てるか
中国などの増産投資によってもっとも影響を受けると見られるのは、棒鋼、型鋼 など建設関連だ。建設関連は北京オリンピック、上海万博など不動産投資の増大を背 景に,数年の間は高成長が続くことは確実だ。しかし、オリンピック、万博など ビッグプロジェクトが終了すれば、供給が需要を上回ることになる。中国が輸入国から 輸出国に転じるわけで,日本にも影響が及ぶことは確実だろう。
一方、中国でも自動 車、電機などは建設向けとは異なり、ビッグプロジェクト終了後も生活水準が向上し、安定した伸びが期待できる。幸い、自動車用や電機向けなど高級鋼板では、 日本の高炉メーカーが技術面で一歩リードしている。自動車用では新日本製鉄が 米国ではイスパット社との合弁、欧州ではアルセロールと提携するなど世界3極での 供給体制を確立している。今後、規模の点で劣性となる可能性があるのか、日本の高 炉メーカーが国際的な地位をどのようにして維持していくのか、経営力が問われることになる。