日本で捨てられるプラスチックごみは年間900万トン。その一部が行き場を失う事態になっている。中国が世界中から受け入れてきたプラスチックを中心とする資源ごみの輸入を、この1月(2018年)から禁止したためだ。プラスチックごみの輸出量の7割以上が中国へ向けだった日本では、飽和状態に陥るところも出ている。
「ごみを中国に輸出して自分の国をきれいにしても、中国が汚れます。この先も輸入禁止の解除はあり得ません。中国政府が長い時間をかけて議論をし、決めたことです」
中国科学院の蒋高明首席研究員はこう断言する。背景にはどんな事情があるのか。中国ではこれまで、急速な経済成長の一端をこの輸入した資源ごみが支えてきた。プラスチックごみを石油燃料よりもはるかに安い資源としてきたのだ。輸入量は年々増加し、2000年代に入ると年間200万トンを突破し、世界の廃プラスチックの6割を輸入するまでになった。
ところが、プラスチックごみは深刻な環境汚染をもたらした。汚れた状態まま分別もされず輸入されるプラスチックごみは、人件費の安い農民が手作業で洗浄や分別を行ってきた。その際に出る汚泥や洗浄で使う薬品は、そのまま川に流されてきた。
専門家がリサイクル業者の集まる村の土壌や川の水質検査を行うと、鉛や水銀が検出された。輸入されたプラスチックごみだけでなく、経済発展で中国自身が世界有数のプラスチック消費国となったことも加わり、輸入は禁止に踏み切らざるを得なくなった。
EUは域内ですべて再利用・リサイクル
EUは中国ショックの対策として、域内で出回るプラスチックごみを2030年までにすべて再利用・リサイクルにする計画を打ち出している。日本はどうか。田中泉キャスターによると、プラスチックごみの輸出量の72%、年間100万トン(東京ドーム3杯分)が中国向けで、次にベトナムの9%となっていた。「日本は中国の輸入禁止直前に駆け込み輸出したために、問題は表面化していませんが、パンクするのは時間の問題です」という。
家庭から排出されるプラスチックごみは、汚れが落とされ分別回収が定着しているので、国内でリサイクルされるが、飲食店やオフィスから排出されるプラスチックごみは分別されず、汚れたままで回収して中国へ輸出されていた。これがたまり続けている。
中国に代わる、新たな輸出先として浮上しているのがタイやベトナム、マレーシア、インドネシアなどの東南アジアである。しかし、ここでも規制の動きが始まっている。世界のごみ問題に詳しい東北大大学院国際文化研究科の劉庭秀教授は、「ベトナム政府で規制の動きが出ているし、タイも今夏、新たな対策を打ち出す方針のようです」と話す。
他国を頼らず、自国でリサイクル社会を目指すにはどうすればいいのか。プラスチックごみの研究をしている大阪商業大学公共学部の原田禎夫准教授は欧州のデポジット制度を例を挙げた。
「ペットボトル飲料に5~10円上乗せして販売します。客は飲んだ後に、ペットボトルを店に設置された返金機械に入れると、上乗せ分が返ってくる仕組みです。この機械は返金だけでなく、缶や瓶、ペットボトルを自動仕分けします。こうした仕組みを細かく作っていくことも大事です」
劉教授は「リサイクルに頼りすぎる社会をつくってしまったのも問題でしょう。ごみを減らすリデュース(減らす)、リユース(再び使う)、リサイクル(再生させる)、リペア(修理する)の4Rで循環型社会のあるべき姿を考える必要があります」と指摘した。
*NHKクローズアップ現代+(2018年5月9日放送「ペットボトルごみがついに限界!?~世界に広がる"中国ショック"~」)