ひきこもり支援施設で虐待やトラブルが繰り返されているらしい。NHKに寄せられた一枚のファクスから、深刻な実態が浮かび上がった。ほとんど取り締まりもされず、悪徳業者を野放しにしている。
60代後半の夫婦からきたファクスには「だまされる人が出ないように取り上げて」と切実な思いがつづられていた。
この夫婦は20代の娘がおり、親子関係のもつれから「母親の頭を一回たたいたことがある」という。悩んでいるところへ、自主支援施設のホームページが目に入った。「一から支援」「就職まで」をうたっていた。
相談すると「おカネを残しても何にもなりませんよ」「娘さんの未来を買いましょう」と説得され、3カ月570万円の契約を結んだ。
こうした支援をうたう施設は、全国に少なくとも400カ所。夫婦が契約したのは「宿泊型」といわれ、施設に住まわせ、生活力やコミュニケーション能力をつけさせ、就労訓練をするという。
「何が起きているのか」と、武田真一キャスターが問う。
娘さんはマンションに押しかけた施設職員に強引に車に乗せられ「入所」させられた。そこはアパートに一室で、指導は受けられず、食事も1日一食しか与えられなかった。放置され、外出は制限された。娘さんはスキを見て警察に助けを求めたが、施設の職員が「母親の同意を得ている」と言うと、とりあってもらえなかったという。
同じ22日(2017年5月)夜にTBS「ニュース23」でも同じ事件が報じられ、こちらでは施設職員が娘さんのことを「精神障害があり、うそをつく」と警察に話したという。コロリとだまされて、安易な対処しかしなかった警察は怠慢といわれてもしかたがない。これでプロの警察官か。
娘さんはアパートに戻され、暴力を受けた。「過呼吸になり、床に転がって泣いていました」と言う。TBSでは蹴られ、箸で刺されたとも伝えた。3カ月後に逃げ出せたが、今も記憶からPTSD(心的外傷後ストレス群)で、突然パニックに陥ることがあるそうだ。
この施設(東京品川区)にNHKが取材すると、赤座孝明代表は元警察官だった。「暴力は事実無根。それ以外のコメントはしない」「そういう情報があったのなら中傷、はらいせの言動だ」と答えた。警部だったことを売りにしていたホームページは、その後修正された。
この施設の元職員2人は「入所者の腕をひねり上げて、拘束する方法を教えられた」と証言する。アパート一軒に10人程度が入所し、窓には内側から開けられない特別なカギをかけ「自由に出られず、訓練などなかった。これで自立できるのかとずっと思っていた」と語る。施設側は今はカギかけていない、訓練は実施しているとしている。両親と娘さんは損害賠償の裁判を起こした。
フィリピンで進学サポートするはずが...
関東地方で30代後半の息子が10年以上ひきこもる母子家庭の事例も出た。誰にも相談できずにいた母親は、フィリピンで英会話を学び、進学をサポートするというパンフレットを目にした。滞在費やレッスン代、サポート代で600万円かかるのには驚いたが、息子のためにと契約した。しかし、フィリピンにわたると、かけはなれた内容だった。
英会話の授業は一切なく、洋画のDVDを見るだけ。職員はマリンスポーツや女性がいるカラオケ店に通う。6カ月の予定を半月で打ち切り、名古屋のマンションにいれられた。フィリピン滞在費として請求された288万円の中には職員の水着代やカラオケ代までふくまれていた。「3カ月分の滞在費は前払いのため返金できない」とされ、返ってきたのは150万円だけだった。
母親は「高額料金を払うために生活もできない。言いなりになっていたら路頭に迷っていたかもしれません」と振り返った。この施設は取材に「プライバシーにかかわるので回答できない」という。
別の施設の職員は「近所に言えないことだから、値段はつけ放題」という。ひきこもりの人は39歳以下だけで54万人といわれ、40歳以上をふくめるとさらに増える。それにつけ込む悪徳業者がボウフラのようにわいている。業者には「すごいドル箱、ビジネスチャンスなんですね」と、武田キャスターも驚きを漏らした。
NHKはひきこもりの家族会にアンケート調査をし、312人から回答を得た。施設を利用したことがある家族が84%、トラブルや不適切な扱いを受けたのは25%だった。
ジャーナリストの池上正樹さんは「氷山の一角です。被害者をまず家族から引き離す。被害者は声をあげられない、このビジネスに新規業者が次々に参入しています」と語る。施設から否定されると立証できない面もある。密室だから犯罪が起きやすい。
白梅学園大学の長谷川俊雄教授は「ひきこもりが長期化すると、親は経済的に行き詰まる。子は社会的に孤立する。行政にはチェック機能がない」と、実態を指摘した。
悪徳業者に巻き込まれないために気をつけるべきこととして、全国の施設を調べた工藤定次・青少年自立支援センター理事長は「契約前に必ず見学する」「閉鎖的でないかを確認する」「すぐに解決という甘い言葉に要注意」をあげた。
行政の相談窓口も全国の自治体にあるが、「どこに相談したらいいかわからない」が45%もあった。池上さんは「すぐに就労につながらなくても、地域との関係性をつくるのが大事」と話す。
武田キャスターは最後に「ホームページで情報をお寄せください」と結んだ。決まり文句ではあるが、隠されている実態を調べるためには、きわめて重要な呼びかけだ。世間に十分知られてこなかったことが悪徳業者の横行を許した。弱い人につけ込む支援という名のブラックビジネスを放置すれば、無法社会になる。気づいた人は声をあげよう。
*クローズアップ現代+(2017年5月22日放送「トラブル続出 ひきこもり"自立支援"ビジネス」
あっちゃん