先月末、快進撃を続ける週刊文春の新谷学編集長と話す機会があった。女性誌の編集長のように軽やかで明るい人だった。口癖は「親しき仲にもスキャンダル」だという。週刊現代や週刊ポストは「死ぬまでSEX」とヘア・ヌードグラビアに力を入れているが、うちはスキャンダルを選択し、そこに記者とカネを集中しているから今の週刊文春があるという。
「われわれの仕事は理屈をこねることじゃなくて、向こうがぐうの音も出ないファクトを突き付けることです」
週刊文春のスクープ記事をテレビのワイドショーやニュース番組に有料で販売する「コンテンツビジネス」を始めたら、申し込みが殺到して嬉しい悲鳴を上げているそうだ。情報(コンテンツ)を思うように活用できていない新聞社はうらやましくて仕方ないだろう。週刊文春の成功が週刊誌の新たな地平を切り開くかもしれない。
その週刊文春がこのところ選択したターゲットは舛添要一都知事である。高額すぎる海外出張費や公用車を使って毎週末に別荘に帰っていたことを報じたが、今週は舛添氏の政治団体の収支報告書(2012年から14年分)を徹底的に精査して、彼の「血税タカリの実態」を暴いたのだ。
週刊文春の指摘が事実だとしたら、そのタカリぶりは政務活動費を私的に流用していた野々村竜太郎前議員をも凌ぐのではないか。何しろ、正月を家族で過ごしたホテル代を「会議費」として13年に約24万円、翌年も約13万円を支出している(当該のホテルでは「2回とも会議は開かれていない」と証言)。
家族と行ったと思われる東京・世田谷の自宅に近い天ぷら屋、イタリア料理店、湯河原にある回転寿司からも領収書をもらって、自分の政治団体に計上していたというのである。その他、舛添氏の趣味である美術品の購入、それもわずか3000円から5000円(どんな美術品だ?)でも必ず領収書をもらい、宛名を政治団体にしてくれと指定されたと、都内の美術商が証言している。
大笑いしたのが都知事に就任したばかりのエピソードである。男性職員を「御馳走する」と地元のマックへ誘った。店の前まで来たとき、知事は自宅にクーポン券があることを思い出し、その職員に取ってくるよう命じ、帰ってくるまでSPと一緒にマックの前で待っていたというのだ。
上脇博之神戸学院大学教授は、繰り返し同じ虚偽記載がなされているから、「会計責任者の単純ミスではなく、舛添氏による意図的なものと考えざるを得ません」といい、虚偽記載の場合、5年以下の禁固または100万円以下の罰金に問われる可能性があるとしている。政治資金規正法の虚偽記載の「公訴時効は5年」だから、現在も罪に問われる可能性はある。
週刊文春にこれだけの「ファクト」を突き付けられ、今ごろ舛添氏は知事なんぞにならなければ週刊文春に狙われることもなかったのにと悔やむことしきりであろう。
タックスヘイブンで税金逃れ5兆円!消費税2%相当・・・増税の前にこの連中から取れ
タックスヘイブン(租税回避地)の会社の設立などを手がける中米パナマの法律事務所「モサック・フォンセカ」から流出した「パナマ文書」だが、5月10日(2016年)に国際調査報道ジャーナリスト連合は文書に記載されている20万以上にのぼる法人名や関連する個人名の公表に踏み切った。
週刊文春によれば、文書に記載されている日本人は32都道府県に約230人だという。三木谷浩史・楽天会長兼社長、重田康光・光通信会長、島田文六・シマブンコーポレーション前社長、友杉直久・金沢医科大学名誉教授などの名があり、伊藤忠商事、丸紅、ライブドア、ソフトバンクBB、東京個別指導学院、東洋エンジニアリング、エム・エイチ・グループなどの企業名もある。
いまのところ唯一「公職」から名前が挙がっているのは都市経済評論家の加藤康子・内閣官房参与(57)。故・加藤六月農水相の長女で、ウエディングドレスの輸入販売などを手がける会社の代表を務めている。
タックスヘイブンそのものは違法ではない。資産家が相続税を軽くしたいために、タックスヘイブンに資産を移すときに日本国内で譲渡税を支払っていれば、それ自体に犯罪性はない。読売新聞(5月10日付)は「『パナマ文書』に記載されている日本の企業や一般個人を、現時点では匿名で報道します(自ら公表した分を除く)」としている。
では、今回のパナマ文書が日本でも大きな関心を集めているのはなぜか。週刊現代で日本共産党の参議院議員・大門実紀史氏がこう指摘している。<「日本銀行の調べでは、日本企業が14年末の時点でケイマン諸島に総額で約63兆円の投資を行っています。1位の米国の約149兆円に続いて、堂々の2位です」>
また、政治経済研究所理事で「タックスヘイブンに迫る」著者の合田寛氏もこういう。<「多国籍企業の課税逃れによる税収ロスを足せば、最大で50兆円くらいはあるのではないか。そのうちの1割が日本の税収ロスとすると、日本政府が徴収できていない税金は5兆円。これは消費税を2%上げて増える税収と同じです」>
いまのところ、パナマ文書に対する日本のメディアの反応は極めて鈍いものがある。節税や商習慣の名目で、本来なら税金として徴収され、われわれに還元されるべき莫大なカネが流出している「ファクト」を徹底調査して、何ら違法なことをやっていないとしらを切る輩や企業の面の皮をひんむいてこそ、ジャ-ナリズムといえるのではないか。週刊現代で弁護士の宇都宮健児氏がいう。<「本来、税収を上げるなら、庶民から取るのではなく、タックスヘイブンを利用するような人たちにきっちり納税させるべきだと思うのですが」>