紙の繊維から作られる新素材「セルロースナノファイバー」(CNF)が世界を変えるかもしれない。ナノファイバーはパルプ1本の繊維の中のさらに細かい繊維を取りだしたもので、太さは髪の毛の5000分の1から1万分の1だ。普通の紙は1本の繊維が太いため繊維同士の結合が弱いが、ナノファイバーは細い繊維が多く密接に結合することで強い素材にできる。熱にも強い。そのため、鉄やプラスティックといった素材のかわりになると期待されている。
京都大生存圏研究所の矢野浩之教授はこう解説する。「透明にできるので、ガラスのかわりにもなり、しかも曲げられる。航空機の部品にも入っていけるという夢があります」
原料は紙と同じ草や木で、成育過程で二酸化酸素を吸収し、ゴミも環境負荷が少なく処理できるので環境にやさしいという。すでに世界の国々が開発競争を進めているが、「古くから紙産業が盛んで、植物の加工を得意とする日本が世界をリードしています」と国谷裕子キャスターは伝える。
すでに大人用の消臭紙おむつに応用
矢野教授はナノファイバーを自動車のボディに活用する研究をしている。樹脂部品に10%混ぜて鉄と同じ強度をそれより軽い重さで達成できたそうだ。ほかに、薄く、熱に強く、曲げられる性質を利用して、タブレットのタッチパネル、内部部品への利用が研究されている。細い繊維に微細な消臭物質を取り込んだ大人用の消臭紙おむつは、すでに売られている。
あるいは、競技用シューズのゴム底に取り入れて軽量化したり、酸素を通しにくい性質を利用して食品や医薬品の包装材も研究されている。
ただ、実用化には課題もある。製造コストが高いのだ。鉄鋼1キログラムあたりの製造コストは50~150円、プラスティックが200~1000円なのに対して、ナノファイバーは5000~10000円かかっている。
「何に活用できるかという夢は非常にたくさんありますがが、じゃあどこに実際に使われるのかとなると、われわれも非常に苦労しています」(CNF開発に取り組む王子ホールディングス取締役)
*NHKクローズアップ現代(2016年1月12日放送「『未来の紙』が世界を変える!?~日本発・新素材の可能性~」)