免疫細胞の力を高めてがんを治療する薬「免疫チェックポイント阻害剤」ががん治療を根本から変えると、世界中から期待を集めているという。この薬はメラノーマや肺がん、腎臓がんの治療で目覚ましい効果を上げており、免疫療法が手術、抗がん剤、放射線に続くがん治療の柱になるとの期待もある。
がん細胞と免疫の関係について詳しい山口大の玉田耕治教授は「通常の抗がん剤や手術などが効かなかった患者さんで、2割から4割ぐらいの人に効果があるということで、非常に劇的に効くと言えます」と話す。山崎直也・国立がん研究センター中央病院皮膚腫瘍科長も「効いたらずっと長く効くという点で、画期的な薬です。お薬でがんを本当に治せる、克服できる時代が来たのではないでしょうか」
効きやすいがんと効きにくいがん
がん細胞には「免疫細胞の攻撃を上手にすり抜け、免疫細胞に攻撃されずに大きくなってきたもの」(玉田教授)という性質があるため、免疫細胞の力を高めてガンを攻撃しようという研究は従来から行われていたという。ところが、効果を上げるものはほとんどなかった。多くは免疫細胞自体の攻撃力を高めるというもので、いわば「アクセル」を強める発想だったが、免疫チェックポイント阻害剤は免疫細胞の「ブレーキ」のメカニズムを利用しているそうだ。
免疫細胞には攻撃をストップするブレーキのボタンが備わっているが、攻撃を受けたがん細胞は腕を伸ばしてこのボタンを押してがん攻撃をとめてしまう。免疫チェックポイント阻害剤は、がん細胞からブレーキを守ることで免疫細胞ががんを攻撃し続けるのだ。
ただ、研究を進めると、免疫チェックポイント阻害剤には効きやすいがんと効きにくいがんがあることがわかってきた。すい臓がん、前立腺がん、大腸がんなどは一般的に効きにくいという。これらは遺伝子の変異が少ないタイプのがんのため、免疫細胞ががん細胞を正常な細胞と認識してしまい、攻撃しづらいからだと考えられている。