父を突然亡くした8歳の少女・千秋(本田望結)と母(大塚寧々)は、心の傷を癒すかのように旅ともいえない旅を繰り返していた。母子は見知らぬ駅で降り、さまよい歩く。そんなとき、飛騨高山で入り口に大きなポプラの樹のあるアパートが目に入った。ポプラは黄金色に輝いていた。母は感動し、そこに住むことにする。
アパート「ポプラ荘」の大家は独り身のおばあさん(中村玉緒)だった。「あの世に手紙を届けるのさ」。彼女は死んだ人に手紙を届けることができると千秋に言う。千秋は何通も何通も亡くなった父に手紙を書きおばあさんに届ける。彼女は父の死で精神のバランスを崩しかけていたが、手紙を書くことによって明るさを取り戻してゆく。
それを知った母は「かえって千秋の心を乱すことになるので、止めてくれませんか」と頼む。おばあさんはそれには反論せず、千秋の書いた手紙を母に見せる。そしてこう言う。「手紙というのは、何かに運ばれていってこそ、書いた人の心がほんとうに解放されるのではないか」
手紙を書くことで癒され解放されていく残された人々
ポプラの樹のざわめきが効果的に挿入されている。冬になって葉が落ちると、落葉をかき集めて焼き芋を焼く。おばあさんは芋を濡れた新聞紙で包み、さらに銀紙で包んで焼くと美味しく焼けると教えてくれた。アパートのお隣さん・佐々木さん(藤田朋子)も千秋に優しくしてくれる。千秋は佐々木さんと芋を焼き食べる。
大人になった千秋(村川絵梨)は失恋や失職で悩んでいた。そんな彼女におばあさんが亡くなったという知らせが届き、十数年ぶりにポプラ荘に赴く。葬儀にはたくさんの人々がつめかけていた。佐々木さんはその人たちを「みんなお仲間ですから」と紹介する。おばあさんに手紙を託した人たちだったのだ。千秋は感嘆する。おばあさんは「不安で表情を失っている」のを見かけると、道端で、電車の中で、公園のベンチで、病院の待合室で一人ひとりに声を掛けていたのだった。
棺の中は手紙で埋め尽くされていた。千秋が遠慮して自分の手紙を隅に入れようとすると、佐々木さんが遺体の顔の近くに導く。かつて母は、亡くなった父にあてて書いた手紙を、おばあさんに渡してほしいと預けていたのだ。その手紙が改めて千秋に手渡される。千秋が大人になって、大丈夫になったら、ほんとうのことを伝えてほしいと託したものだった。手紙には父の死の真相が書かれていた。
「お母さんバカだねえ。私、全然大丈夫なんかじゃないよ」と千秋は泣きじゃくる。そして、千秋は持ち歩いていた大量の睡眠薬を捨て、新たな旅立ちをするのだった。
ラストでもポプラはざわめいていた。すべてのことを見て、知っていたとでも言うようだ。「もうひとりの主人公」であるポプラはスタッフが原作のイメージに合うものを探し回り、撮影のために移植したそうだ。心がホッコリする映画だ。メールやLINEではなく、ちゃんと手紙を書いてみようという気になった。
佐竹大心
おススメ度☆☆☆