『イスラム国』人質救出の失敗「検証」させぬ政府・・・「特定秘密に当たる」と経緯明らかにせず

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「よく頑張ったよ、後藤健二さん」

   2月2日朝(2015年)、少し週刊誌について知っている人は『週刊現代』の新聞広告を見て「おや?」と思ったに違いない。週刊現代の締め切りは木曜日の夜で、後藤さんが殺害された映像がYoutubeで公開されたのは発売前日の日曜日の早朝だったからだ。もしや週刊現代だけが極秘に後藤さん殺害情報を掴んでいたのか。そう思って読んでみたがそうではなかった。

   亡くなられた後藤さんはもちろん、残された家族や親類、友人たちには失礼になるが、日本中が後藤さんの死の衝撃と悲しみに包まれているとき、このタイトルはみんなが思っている気持ちをそのまま表していると、私には思えた。後藤さんの安否がわからない中でタイトルをつけなくてはならない週刊現代編集長が、考えに考え抜いてつけたタイトルに違いない。

「子どものころは丸顔で本当に可愛かった」後藤健二さん兄の慟哭

   『週刊文春』と『週刊新潮』は後藤さんの死についてさまざまな角度から取材している。週刊文春は実兄の後藤純一さん(55)の「慟哭手記」を巻頭に掲載している。弟の死を受け入れざるを得ない動画を見て、「覚悟はしていたはずなのですが、その後は虚無感だけが襲ってきました」と話している。

   健二さんが行方不明になっているという連絡(どこからとは書いていない)があったのは昨年の11月7日だったという。8歳下の弟は子どもの頃は「丸顔で本当に可愛かった」こと、高校時代はアメフトをやっていたが腰を痛めてやめたこと、法政大学在学中にアメリカのコロンビア大学に語学留学してジャ-ナリズムに関心を持つようになったこと、テレビの制作会社を経て自分の会社を作ったが仕事がなかったため、彼がやっている学習塾で英語を教えていたことなどを語っている。

   仲間のジャーナリストに話を聞くと、普段は慎重に綿密な取材計画をたてて行動する弟が、なぜ今回に限って焦ってシリアに行ったのか、「今まで無事でいられたことによる自信過剰というか、慢心があったのではないか」と自らに問いかけている。淡々としてはいるが、兄の悲しみが心にしみ入ってくるインタビューである。

   週刊文春はこの事件のさなかに、徳島県の30代男性がとんでもない画像をツィッターに投稿して、大きな騒動になっていると報じている。<十四世紀に編纂されたペルシャ語による歴史書「集史」。ここにはキリスト教三大天使のひとり、ガブリエルがムハンマドに天啓を授けている図を表した絵画が掲載されているのだが、問題画像はこれを加工し、ガブリエルがムハンマドの額を打ち抜いている姿にしてしまっているのだ>(週刊文春)

   ネット上で「このコラージュはさすがにマズいだろう」という意見が広まり、ハンドルネーム「ゆき氏」の犯人捜しが始まった。あっという間に実名、徳島市内の自宅住所、アルバイト先などが晒されてしまったというのである。そして、アラビア語のハンドルネームを持つ者たちから怒りを込めた「殺害予告」がツィッター上に投稿されたという。

   だが、週刊文春によれば、これはどうやら「ゆき氏」というハンドルネームからたどり、それと共通点のある人間の情報を無責任にネットに投稿したもので、真の画像投稿者は別の<「30代の男性」(徳島県警警備部公安課)>だという。さらに取材を進めていくと、このハンドルネームを最近使っていたのは徳島県内の10代の女性だという情報もあり、事態はより複雑だという。

   それはさておき、このような画像を投稿するバカのおかげで、30代の男性の自宅や、間違われて実名を出されてしまった人の自宅周辺も県警の捜査員が警戒中だという。こういう下劣な画像をあげた人間に言論・表現の自由をいう資格はない。

日本人標的で欧州・中東より危ない東南アジアのリゾート地

   週刊新潮はこれから誘拐の危険が高まる海外リゾートやテロのリスクがある国内施設について触れている。まず海外では欧州や中東よりも、「むしろインドネシアのバリ島など、東南アジアのリゾート地だと思います」と話すのは軍事ジャーナリストの黒井文太郎氏。東南アジアには狂信的なイスラム原理主義者が多いからだという。

   国内では渋谷のスクランブル交差点など人の多く集まるところは要注意だろうが、警視庁公安部外事三課の捜査員は、2002年に都内に住むパキスタン国籍の人間を入管法違反で逮捕したが、その交友関係からたいへんな資料が出てきたといっている。

   その人間はアルカイダのナンバー3の指揮下にある米国オフィスと頻繁に連絡を取り合っていたそうだが、出てきたのは0系から800系に至る新幹線の写真だったという。<「やつらがテロ対象として新幹線に強い関心を抱いていたのは間違いありません」(同捜査員)>

   新潟の柏崎狩羽原発や福井県の大飯原発など複数の原発施設の写真も出てきたそうだ。

   想像したくもないが、日本はテロリストたちにとってやりやすい国であることは間違いない。そうした日本がテロリストの標的にならないように「国民の安全と安心」を守るのがトップの役割であるはずだが、安倍首相はそれをわかっているのだろうか。国会の答弁を聞いている限り、その覚悟は伝わってこない。「テロに屈しない」というだけで、今回の人質事件の詳細な経緯も「特定秘密」に当たる恐れがあるから詳らかにできないのでは、政府がどのような対応をし、どこが間違ったのかの検証すらできないではないか。

   だいいち、湯川さんはもちろん、後藤さんまでもが人質になっている情報を掴んでおきながら、中東歴訪中に「イスラム国と断固戦う」と強調する演説を行い資金援助を表明したのはなぜなのか。これがイスラム国側の怒りを駆り立て、要求をエスタレートさせたのではないのか。

   まずは安倍首相の責任を国会で明らかにし、野党がそれを十分にできないのであれば、ものいわぬ新聞、ものいえぬテレビに代わって週刊誌が得意の「徹底追及」すべきである。

安倍内閣より一枚も二枚も上手だった「イスラム国」交渉力!金塊運ぶ案も・・・

   今週は『週刊ポスト』だけがメディアの責任と「人質解放交渉」の裏側をわずかだが報じている。週刊ポストは、野党も最初から安倍批判を封印し、「安倍首相の中東歴訪がテロリストを刺激し、今回の事件を招いたかのような、的外れの政権批判が野党の一部などから出ていることだ」(読売新聞1月23日付社説)、「事件は首相の歴訪が招いたものとの批判があるとすれば、誤りだ。卑劣なテロによって評価が左右されることはない」(産経新聞1月22付社説)のように、安倍政権の御用新聞が安倍の責任逃れに荷担していることを難じている。

   週刊ポストによれば、一昨年の英国サミットで安倍首相が署名した首脳宣言には「テロリストへの身代金を拒否する」ことが盛り込まれていた。それによってイスラム国へ直接身代金を払うことはできないため、ヨルダンへの経済援助という形をとることが検討されたという。

   しかし、イスラム国のほうが一枚も二枚も上手だった。ヨルダンを噛ませることで身代金も死刑囚の釈放も手に入れようとしたのだと国際政治アナリストの菅原出氏は見る。

   また週刊現代によれば、湯川さんとの交渉で、身代金として払えばFRB(米連邦準備制度理事会)に嗅ぎつけられてしまうから、数億円の金塊を運ぶ案まで出されたという。だが、「湯川さんはすでに殺害されている」という情報が出たため実現しなかったという。真偽の程はわからないが、「カネですめば」という考え方が日本政府にあったのは間違いないのかもしれない。

   そもそも、日頃から人的接触もルートもないままの裏交渉がうまくいくはずはない。日本という国は外交には未熟で、カネだけで解決しようとする国だというイメージが定着すれば、これから第2、第3の人質事件が出てくるのはいうまでもない。

「人を殺してみたかった」名古屋大女子学生・・・「週刊新潮」実名報道で問題提起「凶悪重大な事案」

   国外だけではなく、国内でも暗い事件ばかりが続くのは、日本という国が下り坂を滑り落ちている証拠なのだろうか。19歳の女が77歳の女性を惨殺した事件は、ノーベル賞受賞者を輩出した名古屋大学の現役大学生という点でも驚かされた。

   多くの雑誌で特集を組んでいるが、やはり事件の週刊新潮といわれているだけあって、記事に読み応えがある。週刊新潮は他誌が少年法を遵守して匿名なのにも異を唱え、名大理学部1年生の実名を出している。それは2000年2月に出された大阪高裁判決で、「社会の正当な関心事であり凶悪重大な事案であれば実名報道が認められる場合がある」との判断が下されているのに、他のメディアはなぜ出さないのかという問題提起だ。

   私が現役の編集長だったらどうしただろう。「人を殺してみたかった」という犯行動機は許されるものではないと私も思うが、各誌を読む限り、この女は以前からそうとう病んでいたと思われる。今のところ別の殺人事件に関与しているとも思われないから、匿名にするだろう。よってここでも実名は伏せておく。

   この女と被害者・森外茂子さんとの接点は、森さんが新興宗教「エホバの証人」(ものみの塔聖書冊子協会)の古参信者で、昨年10月に勧誘がきっかけで知り合ったという。二人は急速に仲良くなったようだが、12月7日、女子大生が自室に森さんを請じ入れ、斧で背後から殴りつけた後、森さんのマフラーで首を絞め、遺体を浴室に置いた。

   森さんの捜索願が出され、仙台市の実家に帰っていた女子大生に愛知県警が連絡し、アパートに戻ってきた彼女に千種署署員が部屋を見せるようにいったところ、拒んだため、踏み込み浴室で森さんを発見した。

   仙台市青葉区で暮らす両親の家は豊かで、彼女のピアノの腕前は、母親がコンクールにも出られと話すほどだという。だが、中学時代から斧やカッターナイフを所持し、友だちの飼っている猫に向かって「これで尻尾を切ったらどうなるんだろう」といったり、彼女の周辺で猫の変死が相次いで起きたことがあったという。

   高校ではクラスの男子生徒が突然視力を失い、杖なしでは歩けなくなる状態になった。かろうじて失明は免れたが、今でも障害が残っているそうだが、その症状からタリウム中毒の疑いが濃厚で、今回の事件後の女のアパートからもタリウムと思われる薬品が押収されたといわれる。

   酒薔薇聖斗やタリウムで母親を殺そうとした少女を好きだとツイートし、「日常を失わずに殺人を楽しめることが理想なんだと思う」「名大出身死刑囚ってまだいないんだよな」ともツイートしていたそうだ。

   こうした「殺すのは誰でもよかった」殺人が増えるのはどうしてなのだろう。だいぶ前にいわれた「衝動殺人」とは違うようだ。こうした犯罪を事前に抑止する意味でも、彼女の取り調べや精神鑑定の結果などを公表し、社会全体で考えていくことは必要であろう。いたずらに少年法で守り、すべてを闇に葬ってしまっては、こうした事件の再発を防ぐことはできないはずだ。

元木昌彦プロフィール
1945年11月24日生まれ/1990年11月「FRIDAY」編集長/1992年11月から97年まで「週刊現代」編集長/1999年インターネット・マガジン「Web現代」創刊編集長/2007年2月から2008年6月まで市民参加型メディア「オーマイニュース日本版」(現オーマイライフ)で、編集長、代表取締役社長を務める
現在(2008年10月)、「元木オフィス」を主宰して「編集者の学校」を各地で開催。編集プロデュース。

【著書】
編著「編集者の学校」(講談社)/「週刊誌編集長」(展望社)/「孤独死ゼロの町づくり」(ダイヤモンド社)/「裁判傍聴マガジン」(イーストプレス)/「競馬必勝放浪記」(祥伝社新書)ほか

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