道路の凍結防止剤…シカにとっては冬の貴重な塩分
長野ではシカの被害である。2000年までは3万頭前後で推移していたのが、いま10万5000頭だ。信州大の竹田謙一准教授が行った環境異変の実態調査では、森林の食害は長野県全域に及んでいた。生息域は標高の高いところに拡大して、南アルプスでは79年にお花畑だったところが、08年には山肌むき出しのガレ場と化していた。
長野県の観光客は年間2000万人。登山者が期待する風景が消えつつある。自然破壊は経済上のデメリットにもなるわけだ。しかも、その観光開発が思わぬ作用をしていることもわかってきた。
雪に覆われた八ヶ岳山麓の自動車道路に、深夜、多数のシカが現れ、除雪した路面をなめ始めた。路面の水分を分析してみると、塩分(塩化ナトリウム)が通常の道路の30倍もあった。散布された凍結防止剤である。
長野県はこの10年で700キロ道路を延長した。凍結防止剤の散布量は3倍になった。これがシカの生息域を拡大させたという。塩はシカの生命維持に欠かせないが、通常は土や岩からとっている。雪に覆われた冬は厳しい季節になるはずが、道路から貴重なミネラルを得たことになる。
長野県は捕獲数を10年で4倍に増やしたが、肝心のハンターの数はピーク時の5分の1だ。一方で、牧畜用の牧用地の開発はシカに新たなエサ場を与えた。絶滅はさせてはいけないが、どうやって共存のバランスをとるのか。小諸市は全国で初となる野生動物の専門家を常勤職員に採用して、共存の道をさぐる。専門家は現場にこそ必要だ。ここまで増えさせてしまったのも、現場に目がなかったためだろう。それでなくても行政の動きは遅い。日々の生きた情報が霞ヶ関に届かないといけない。道はそこからだろう。
ヤンヤン
*NHKクローズアップ現代(2014年5月16日放送「急増する野生動物被害~拡大の実態~」)