自然界で最強のボツリヌス菌の毒素が、脳卒中の後遺症でマヒした手足の改善に効果を発揮している。悪者扱いだった細菌が実は難病治療に役立つと注目されているのだ。
徳島県の阿部みゆきさん(44)は、4年前に脳出血で倒れ2か月間寝たきりになった。命は取り留めたが、左半身麻痺が残り左手は固まったままで物をつかめず、腕は胸に引き付けられたままだ。そんなとき徳島大学病院・梶龍兒教授の「ボツリヌス治療」をたずねた。ボツリヌス菌が作り出す毒素を1000分の1に薄めて注射するというものだ。
「この治療は、固まった筋肉に打つと柔らかくなるし、注射の直後からリハビリをしないと効果が薄いです」(梶教授)
肩や腕の4か所に注射して直後に揉みほぐしていくと、1時間後に固まっていた左の指が少し動かしやすくなった。阿部さんは「痛みがなく伸びるのでびっくりです」と話す。その後、阿部さんは左手でペットボトルを握れるようにまで回復し、手洗いで指の間も洗えるようになった。
保険適用でも注射代1回6~9万円
ゲストの森公実子(歌手)「私の主人は交通事故で右半身が動かないんですが、これは治りますか」
梶教授「動かない筋肉が固まったままの状態ならば、お役にたてると思います。一方、筋肉がダラーっとして緊張がないのは難しいと思います」
筋肉を動かしているのは脳からの指令だが、脳卒中になるとこの指令系統が寸断され、間違った神経に繋がっているために動かない。この神経をボツリヌス菌の毒で切り離し、離れた瞬間にリハビリを施せば正常な神経につなぎ直して麻痺が改善されてゆくのだという。
塚原泰介アナ「治療をした23人の1週間後の効果で見ますと、著しく改善した人が4人、効果は中程度が13人。阿部さんはこの中程度に入るそうです。治療の費用は保険適用で3割負担なら1回の注射代が6~9万円だそうです」
梶教授が補足した。「治療効果は発症から何年たった後でも期待できます。何度も申しますが、ボツリヌス菌そのものが効くのではなく、ボツリヌス菌が作る毒素を薄めて薬として使うと、こうした効果が期待できるということです」
ボツリヌス菌そのものは極めて致死率の高い細菌だ。
(磯G)