「○○が社会を変える」というのは「クローズアップ現代」の放送タイトルでよく見かけるが、今回はその○○のなかに古風で抽象的な単語が入った。それは「物語」である。
物語の効用を説くのはハーバード大学のマーシャル・ガンツ博士で、50年以上市民運動をオーガナイズし、人種差別の撤廃や移民の労働状況改善に取り組み、オバマ大統領の誕生にも貢献した。そのガンツ氏が先頃、日本のNPOや市民団体のリーダーの集まりに講師として招かれた。活動を広げるための手がかりを求める聴衆に対して、人と人をつなぎ、共感を生み、活動の輪を広げるためには「物語」(ストーリー)が重要であり、その物語には「セルフ・私の物語」「アス・私たちの物語」「ナウ・今の物語」の3要素があると説いた。
「セルフ・私の物語」「アス・私たちの物語」「ナウ・今の物語」
その3つの要素が入った実践例として、ガンツは子供のいじめ自殺防止運動に取り組む同性愛者の男性のスピーチを挙げた。「女みたいだ」「オカマ」とからかわれ、孤独だった子供時代の話(セルフ)からはじめ、次にみな(アス)の共感できる要素を述べる。「誰でもからかわれたり、いじめられたりして、誰も助けてくれる人がいないという気持ちはわかるはずです」
そして、なぜいま(ナウ)なのかを訴える。「子供たちが死を選ぶ前に、一緒に手を差し伸べましょう」
ここでは、たしかに人を動かす効果的な「物語」の構造が分析されているようだ。しかし一方で、いくら構造的に正しい物語であっても、個個別別のテーマやクオリティ、時代性によって、その成否、受け方はまるで変わってしまうだろう。
どうも昨今の物語というのは、社会活動やボランティアよりは別の方角で目立ち、有効に活用されているようでもある。たとえば、ブラック企業の人材募集や「君も人生一発逆転、○秒で○億稼げる方法」といった怪しい広告などだが、そうした状況を変える物語はあるのだろうか。
ボンド柳生
*NHKクローズアップ現代(2014年1月7日放送「シリーズ未来をひらく2 『物語』の力が社会を変える」)