タマ子23歳、一応大学は卒業できた。でも仕事は決まらなくて、もっぱら山梨の実家でニート生活だ。食べて寝て、漫画読んで、ゲームして。父が営むスポーツ用品店を手伝うでもなく、離婚した母が出ていき、姉が嫁に出たあとの家でぼうっと暮らしている。家を出るのは、コンビニか惣菜屋に行く時くらい。常にすっぴんで、店の客である中学生男子だけが友達だ。
多分、タマ子は学生時代クラスで浮いていた。だから地元の友達なんかいない。いらないのかもしれない。強がっているのか、心底からそう思っているのかわからない。けれど、人との関わりがないのだから、何のドラマも起こる気がしない。テレビを見ては「日本はだめだ」と繰り返す。上げ膳据え膳の生活だけれど、父への感謝は一切見えない。タマ子、おまえもうちょっとちゃんとしろよ。
ダメな自分が苛立たしい…世間のせいにしてますます自己嫌悪
タマ子、じゃなかった。前田敦子は不思議だ。元スーパーアイドルで、新進の女優で、でも身近にいたらきっと人気者じゃない。もちろん、圧倒的にルックスは可愛いし、よく観察すれば飄々とした態度がたまらない魅力なのだけれど、一見したら険のある女子だ。独特のやさぐれ感があり、何かを諦めたような眼でこちらを見る。それはAKBのセンターだった頃から変わらない。数万人の視線を惹きつけているのに、心ここに在らず。だからこそ、はじけるような笑顔が際立った。その瞬間、アイドルの「あっちゃん」が爆発した。
タマ子は笑わない。世間を伺い、期待し、失望し、拗ねた視線で、穿った表情で、こちらをねめつける。お前は何様だ、その眼は何だ。問いただしたくなる。タマ子は自分に向き合うことから逃げてばかりで、夢見がちで内弁慶な自分が大嫌いだ。だから言い聞かせる。今の自分はでくの坊の仮面をかぶっているだけなのだ。私は片田舎でくすぶってるような人間じゃない。はやく誰かが「あなたの才能を見抜けなかった周りは馬鹿ばっかりだ」と言ってくれないものか。
でも現実はそううまくはいなかい。時が経つにつれ、駄目な自分とそれを許容する親父の両方にタマ子は苛立ってくる。この狭い世界から抜け出したいと職を探してみるが、そのビジョンすら稚拙で甘ったれで、ますます自分が嫌いになる。見ていてもどかしい。…それでも、少しずつ季節は巡り、タマ子はある決意を固める。他人から見たら、前進ともいえない前進だけれど、たしかな一歩なのだ。それでいい。