不妊治療を受けている日本の女性の3割は40歳以上で、世界でも突出して高齢化が進んでいるという。通常の妊娠、出産と同様に、不妊治療も高齢になるほど妊娠、出産の確率が低下する。それにもかかわらず、高齢化が進むいびつな形になっている。
背景には、治療をいつやめたらいいのか決断できない患者と、それにつけ込み「患者を金づる」と見てズルズル治療を続ける一部医療機関の商業主義がある。これに歯止めをかけようと、厚生労働省は不妊治療の助成金(年間30万円)の支給に年齢制限を設ける議論を始めた。39歳以下に制限を設ける案も出ているという
妊娠率低下しても止められない44歳。「生活費以外すべて治療費」
現在、不妊治療で最も多く行なわれているのは体外受精だ。排卵期の妻の卵子と夫の精子を取り出して受精させ、受精卵を再び子宮へ戻して妊娠させる。日本産科婦人科学会の調査(2010年)によると、体外受精で妊娠・出産する割合は35歳までは20%、40歳では7.7%、45歳になると0.6%に低下している。
「クローズアップ現代」は治療の長期化に苦しむ中部地方に住む44歳の女性を取り上げた。8年前から不妊治療を受けていて、この1年間はほぼ毎月、体外受精を試みてきた。卵巣に直接針を刺したり、排卵を促す薬でホルモンのバランスが崩れたりと、からだに大きな負担がかかる。それでも、この女性は「もちろん負担は大きいですし大変ですけど、子どもを抱いて歩いている夫婦が本当にうらやましくて、1度ぐらいは自分の子どもを抱いてみたい」という。
女性がこれまで受けた体外受精は23回。1回の費用は30~50万円で費用総額は1000万円にのぼる。夫は電気関係の技術者で年収は650万円だ。夫と共通の趣味だった旅行をやめ、生活費を除いた大半を治療費に当てている。女性は「からだの限界が来る前に、お金の眼界が来てしまう」としながらも、「今やめたら全部ムダになる。自分が生む子どもは1000万円かかっても2000万円かかっても惜しくない」と話す。これまでの精神的、経済的な努力を考えると、やめるにやめられなくなっているのだろうか。
医師も呆れる「医療というより商業」「患者さんは金づる」
NHKが昨年(2012年)、不妊治療について行なったアンケート調査(患者・元患者8213人、医療機関308)によると、35歳以上で不妊治療を続けている1400人のうち47%が「治療をいつ止めたらいいか分からない」と答えた。一方、医療機関の8割以上が「妊娠する可能性が極めて低いと分かっていても患者が希望する限り治療を続ける」と答えている。
アンケート調査では、不妊治療に携わる医師から利益優先の医療機関の存在も指摘された。次のような医師の証言がある。「40歳以上の患者さんに『まだいけますよ。次を頑張りましょう』という形でずるずる引き延ばす。そのつど売り上げが上がり患者さんは金づるになっている」「安易な体外受精が行なわれている」「不妊治療は医療というより商業的だ」 日本生殖医学会の吉村泰典理事長(慶大産婦人科教授)は、「妊娠できない患者に目を向けてこなかったことに、患者目線という観点からわれわれは反省しなくてはいけないと思います。患者さん自身も、妊娠の希望を失いたくないということから、治療が自分の生活とか人生の目標になってしまっているんですね」
国谷裕子キャスター「選択肢はほかにないのですか」
吉村理事長「欧米では40歳以上の方は卵子提供がすすめられています。日本でこれを行なうかどうか、選択肢なっていないことも事実です。もう一つは養子縁組の制度がうまくできていないことも問題ですね。女性が働いていると養子縁組ができないといった制度も変えていき、今後はこうした選択肢を増やす必要があると思います」
「産育」急げ!生殖適齢期は25~35歳
不妊治療を繰り返す以外の選択肢を模索する動きも出てきている。慈恵大学病院は3年前から不妊治療を始める前に必ず説明会に参加してもらい、すべての患者が子どもを授かるわけではないことを説明している。治療を始めてからもカウセリングを行い、治療をいつまで続けるか、患者の判断をサポートしている。
ただ、子どもが欲しいという患者にとってはこれもネガティブな対応でしかない。大事なのは、吉村教授が指摘する「25~35歳までが生殖年齢の適齢期であるという教育の欠如を改め、社会や企業が子どもを生んだあとでも女性が働けるような社会づくり」だろう。
モンブラン