ハイテク製品に欠かせないレアアース(希土類)は9割を中国に依存しているが、これを抜け出せそうだ。日本本土から1800キロ離れた南鳥島沖の排他的経済水域の海底5000メートルで、高濃度で埋蔵量も無尽蔵と思われるレアアースの存在が確認されたのだ。
採取に成功すればレアアースの資源大国になる。そこで、次なるハードルは5000メートル海面下からどう採掘するか。日本の技術力が問われる。調査に当たった海洋資源調査船にNHK記者が同行し、調査の一部始終をカメラに収めた。
生産大国・中国に振り回される世界市場―日本は9割を依存
レアアースは17種類の希土類の総称だ。ハイブリッド車、電気自動車、スマートフォン、LED照明器具など、ハイテク産業に欠かせない。生産大国中国が供給量や価格の支配権を持っていて、たとえばエコカーのモーターの性能を向上させるレアアースの一つジスプロシウムは、2010年までは価格が安定していたが、中国が環境対策を理由に輸出枠の大幅削減を発表して以降は急騰した。 尖閣諸島沖で中国漁船が海上保安庁の巡視船に体当たりしたときも、日本向け輸出が停止され、1年半ばかりの間に価格が30倍に跳ね上がって、今も高止まり状態になっている。
そうしたなか、日本の排他的経済水域である南鳥島沖の水深5000メートルの海底で、国内消費量の230年分に当たる大量のレアアースの存在が突き止められた。太平洋東部の海底火山「中央海嶺」では大量の熱水が噴き出ていて、海水にもともと含まれている微量のレアアースが熱水から放出される鉄などの物質に吸着し、黒い泥となって堆積している。この泥がプレートの運動によって1年間に数センチずつ日本列島の方向へ移動し、長い年月をかけて南鳥島沖まで運ばれてきたと考えられているのだ。
「通常の4倍の高濃度・高品質」に専門家もビックリ
南鳥島の沖合にはどのくらい埋蔵されているのか。それを探るために海洋研究開発機構の海洋資源調査船「かいれい」が1月下旬(2013年)から2月初めにかけて詳しく調査した。水深5000メートルの海底にパイプを下ろして泥を採取する作業で、調査スタッフが注目したのは泥の色だった。黒いほどレアアースが多く含まれているのだが、期待とは異なり茶色だった。これにはちょっとがっかりだったが、調査終盤になって真っ黒な泥の採取に成功した。
持ち帰った泥を詳しく分析したところ、レアアースの濃度は予想をはるかに超えて6000ppmに達していた。分析を担当した東大大学院工学系研究科の加藤泰治教授は、「私たちの経験ではレアアースの濃度は高くても1500ppmぐらいだったのですが、今回の6000ppmはその4倍ぐらい」と驚く。ジスプロシウムは中国のレアアース鉱石に含まれる濃度の20倍、IT機器に必要なテルビウムは16倍、LED照明器具に必要なユウロピウムは35倍と、日本のハイテク産業がとくに必要とするレアアースが大量に存在することが確認された。
南鳥島沖合周辺にはこれがどのくらい眠っているのか。先に国内消費量の230年分と見積もったのは南鳥島沖のごく一部で、加藤教授は「排他的経済水域全体では無尽蔵といっていいくらいあります」と太鼓判を押す。
船やパイプの設備投資で700億円、操業費用は年間400億円
しかももう一つ、南鳥島のレアアースの優れている点があった。キャスターの国谷裕子が「今回の調査で何に注目されましたか」と大阪大の足立吟也名誉教授に聞いた。「最も注目したのは、放射性元素のトリウムが少ないか全くないということでした。陸上のレアアースの鉱山でいつも問題になるのが、採取と同時に出てくるトリウムで、処理が難しい。それがはじめからないか少ないというのは朗報です」
課題は海底5000メートルから採取する技術の開発である。48か国で海底油田、ガス田の開発をしているフランスのテクニップ社は、深海の高圧に耐え、自由自在に曲げられる特殊なパイプで水深3000メートルの海底から原油やガスを吸い上げることに成功している。
調査船に同行したNHK科学文化部の春野一彦記者は、「フランスの技術を使ってもコストの課題が残る」という。船やパイプの設備投資だけで700億円、操業費用は年間400億円と見積もられている。ここは、国家プロジェクトで自前の技術を早急に開発して欲しい。
モンブラン