野生のシカによる食害が深刻な神奈川県丹沢山系では、地元猟友会が県から管理捕獲を委託されている。年間2000万円で400頭が目標だ。しかし、猟友会にはシカより手強いものがあった。メンバーの高齢化だ。大半が60歳以上で、体力的にシカを追いきれなくなっているのだ。「われわれが絶滅危惧種だよ」と会長は笑う。今年度は目標の半分くらいしかいきそうにない。狩猟免許を持つ人は1970年代には全国で51万人いたが、いまは20万人を切った。年齢をみる と半数以上が60歳以上で、20代、30代がいない。「このままだと将来、ハンターがいなくなる」
一方で、農作物被害は226億円(2011年)にもなる。60年代の保護政策で動物が増え、ハンターは減った。「管理捕獲」といえば聞こえはいいが、「殺さないといけない」。「クローズアップ現代」が取材した日、丹沢では20人で13頭を仕留めた。肉を食べずその場に穴を掘って埋める。
仕留めたシカやイノシシを解体して試食するイベントには若い人がいっぱいだった。女性もいる。狩猟を描いたコミックが人気で、自然の恵みをおいしくいただくというブームに、環境省が便乗して開いた催しだった。真の狙いはハンターへのお誘いである。銃の試射を見れば、動物をホントに殺すのだとわかる。だれもがためらう。抵抗がある。それでも環境省は「若いハンターが必要だ」と、たしかにこれも切実である。なぜこんなことになったのか。
マタギになった女子美大生「必要な分だけいただく森とのつき合い方すばらしい」
京都の山間部で猟師をしながら生活している作家の千松信也氏がいう。「猟師をして12年になるが、この間にシカやサルを防ぐ柵やら何やらで、人間がオリの中に住むような状態になってしまった。人間が里山を放置したので、シカが下りてくる。おいしい食べ物がある。シカが悪いのではない」
人間と自然とのバランスが崩れてしまった。これを立て直すことはできるのだろうか。ヒントがあった。山形・小国町のマタギ。この猟師集団は野生動物を増やさず絶やさず利用してきた。そのマタギに昨年(2012年)、新人が加わった。大石紘子さん(28)は美大生のころ民俗学の実習でマタギの猟に参加し、必要な分だけいただく姿に打たれた。森とのつき合い方、向き合い方がすばらしい。
雪の中となったこの日の猟は野うさぎだった。追い出されたうさぎに向かって引き金を引く。大きな獲物だ。山への感謝と獲物の供養を込めて「おいしくいただけます」
大学にも猟師育成コース「野生動物調査から追跡法、猟銃免許取得まで」
狩猟文化の専門教育も始まっていた。北海道江別市にある酪農学園大学にできた狩猟管理学研究室だ。野生動物の行動と数を把握して、追跡法から射撃までをやるプロの育成コースだ。すでに120人が猟銃の免許を取得したという。
岐阜県郡上市で「猪鹿庁」を作った興膳健太さんは、県も巻き込んで狩猟の産業化を目指している。捕獲の仕組みから食品加工、販売までを考え、さらにソーセージなど商品開発に踏み込んで朝市に乗込んだりする。野生動物の恵みをいただく。といって、獲り過ぎてはいけない。
千松氏は「日本人は旬を大事にする。魚でも野菜でも。でも肉は家畜ですよね。ところが野生の肉には旬がある。動物と人間の関係を再構築したい」といった。うさぎを撃った大石さんは「生き物を食べるって、こういうことなんです」といっていた。マーケットで「100グラムいくら」というものに、われわれは慣れ過ぎてしまった。
ヤンヤン
*NHKクローズアップ現代(2013年月日放送「ハンターが絶滅する!?~見直される『狩猟文化』~」)