保護法で闇相場上がった「個人情報」携帯販売店員や公務員こづかい稼ぎ

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   暴力団捜査を担当する刑事にかかってきた1本の脅迫電話が、警察を本気にさせた。愛知県警が個人情報を不正に入手し売買していた大規模な闇ビジネスのグループを摘発したのだ。

   闇グループの中心的役割を担っていたのが『情報屋』で、その下に複数の『探偵業者』や『協力者』と呼ばれる個人情報を提供する企業の従業員や公務員がネットワークで繋がっていた。個人情報が高値で売買されていることに目をつけたこのグループは、摘発されるまでの5年間に12億円7000万円も稼いでいた。皮肉にも、個人情報保護法の施行(2005年)がきっかけで個人情報の相場が高騰、それに目を付けた闇売買の横行だった。

「情報屋」中核に複数の「探偵業者」、さらに下に「協力者」

   愛知県警が摘発した闇ビジネスの中心的役割を果たしていたのが、県内にある調査会社の代表だった新原聡被告(38)で、個人情報を不正に取り引きしていたとして起訴された。グループが拠点にしていたのは名古屋市近郊のマンションに踏み込んだ捜査員は驚いたという。部屋にはFAXやパソコンなど最低限のオフィス機器だけしか置いてなかったが、クローゼットを開けると戸籍謄本や住民票などの個人情報が大量に保管されていた。

   グループの中核的存在の情報屋が複数の探偵業者を束ね、個々の探偵業者の下には協力者と呼ばれる携帯電話の販売店員や個人情報に接することができる公務員などが結びついていた。情報源を持たない探偵業者は、顧客から調査を依頼されると情報屋を通じて個人情報を買い付ける。情報を横流しするだけで情報屋には多額の報酬が転がり込んでいた。これが個人情報を売買する闇のネットワークの構図だという。

   なぜ個人情報がそんなに高値で売れるのか。背景にあるのが個人情報保護法だ。行政機関や企業で個人情報の取り扱いが厳しくなり、これをきっかけに個人情報に対する需要が急速に高まった。情報屋と10年にわたり取り引きしていたという探偵業者はこう証言する。

「住民票とか携帯電話もそうですけど、情報は何でも取れる。FAX1枚のやり取りで(回答が)1日か2日、即日来る場合もある。情報網は本当にすごい」

   なかでも最も顧客ニーズが高いのが携帯電話の契約者情報である。いまや大手3社の契約件数は1億7000万台。そこにはあらゆる個人情報が保管され、格好の売買の対象になっている。くだんの探偵業者も「携帯電話の契約者情報は、住所、名前、勤務先があり、得たい項目にいち早くたどり着ける」と明かした。

   愛知県警の捜査で、大手3社のなかで最多の情報漏洩が確認された会社のケースから、契約者情報流出の手口が明らかになった。四国にあるこの会社の携帯電話販売店に勤める女性店員が、顧客情報を漏洩して逮捕された。「結婚資金をためるために」と2年間にわたり探偵業者に流していた。流した契約者情報の範囲も北海道から沖縄まであったという。なぜそんなことが可能だったのか。全国どこでも同じサービスを提供するため、窓口業務の店員は全国どこの店舗からでもすべての顧客契約情報を引き出すことができる。女性店員はこの機能を悪用したのだが、裁判で彼女は「こんなに大事になるとは思わなかった」と話したという。

処罰甘い!情報漏らしても行政処分だけ。違反してやっと犯罪

   キャスターの内多勝康「企業や行政はどんな取り組みが必要ですか」

   個人情報保護に詳しい岡村久道弁護士はこう解説する。「教育、啓発と同時に、内部監査によるチェックが必要なのですが、ただ守りましょうだけではなく、どのような責任を負うかを詳しく説明する必要があります」

   内多「罰則のあり方については?」

   岡村弁護士は現行の処罰は抜け穴があるという。いまの個人情報保護法では、違反してもすぐに処罰の対象になるわけではなく、初めは行政処分を行い、その行政処分に違反すると始めて処罰の対象になるという。これでは、行政処分のたびに別の会社を作って営業を続けたら、いつまでたっても悪質業者を取り締まれない。

   そこで、岡村弁護士は法律を2階建てにして、情報通信、個人信用情報、医療情報の3分野については特別法をつくり、違反者には重い処分を負ってもらうという案を提案する。岡村弁護士は現行法のもう一つの欠点を指摘した。

「今の法律は、名刺から遺伝子情報まで情報をひと括りにすることによって情報の重要性に差をつけなくした。このため、最も軽いところに合わせて責任を決めなければならない形になっており、逆に重い責任を取れにくくしている」

   何のための個人情報保護法か。施行8年目にして問われている。

モンブラン

NHKクローズアップ現代(2013年1月23日放送「『情報屋』闇のネットワークを追う」)
文   モンブラン
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