産出国を舞台に液化天然ガス(LNG)の争奪戦が激しさを増している。とくに日本は、東京電力の福島第1原発事故後にほとんどの原発が停止中で、火力発電用の燃料に使うLNGが急増している。足元を見透かされて「ジャパンプレミアム」と呼ばれる価格上乗せが当たり前になっているという。欧米の4倍の輸入価格だ。
「世界最大のお得意さん」なのに足元見られて交渉もできず
日本は福島第1原発事故以前からLNGの世界最大の輸入国だが、原発停止でさらに急増し、おそらく世界一高いLNG値段で買わされている。LNGの総輸入額は福島原発事故前の2010年に3兆5000億円だったのが、昨年は5兆4000億円と1兆9000億円も増えた。このLNG輸入額の大幅増が31年ぶりの貿易赤字の大きな要因になったことは否定できない。しかし、だからといって、総選挙を前に最大の争点になっている「脱原発」論議に水を差し、曖昧な安全対策のまま原発維持に偏るのは筋違い。
11月(2012年)に天然ガスが取引された地域別の価格(ドル/ BTU) を比較すると、アメリカ3.50ドル、イギリス10.46ドルに対し、日本は15.42ドルで、液化費用を加えても非常に高い状況になっている。世界最大の輸入国で、産出国から見ればお得意様であるはずなのに、なぜジャパンプレミアムなどという高い価格を押し付けられているのか。中部電力のケースを例に、購入交渉の舞台裏を見て見よう。
60%をLNG火力が占める中電は昨年度は約3000億円燃料費が増加した。当面は電力料金の値上げはしないとしているが、昨年度の決算は創業以来初の営業赤字になった。水野明久社長は「安く購入できるかは収支に非常に影響を与えるので、経営の最重要課題の一つだ」という。
中電がLNGの60%を輸入するのはカタールの国営会社「カタールガス」だ。安定確保のため20年以上の長期契約を結んでおり、数年おきに価格の見直しをしている。原油価格にLNG需要予測などの数字を掛けたものがLNG価格になっている。この数字の見直し交渉で価格を引き下げようとしているが、その交渉策について垣見祐二専務は、「石油価格が高くなるとそれにつられてLNG価格も上がってしまう。その連動の仕方を緩やかにするのが重要な交渉のポイントと思う」という。
しかし、カタールで長年、日本との交渉を仕切ってきたアッティーヤ・元エネルギー工業相はNHKのインタビューに、「LNGは石油など他の燃料に比べ極めて割安です。これは取り引きです。価格の決め方に文句を言っても仕方がありません」とにべもない。
調達コスト削減に本気で取り組まない電力会社
世界の石油・天然ガス市場に詳しい石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)の野神隆之上席エコノミストが生出演し、国谷裕子キャスターの質問に答えた。
国谷「突出して高い値段でLNG を購入しているわけですが、世界最大の輸入国でありながら、なぜ交渉力がないのかでしょうか」
野神「日本の大口需要がほぼ100%LNGによって賄われている構造があるからです。欧州ではイギリス、ノルウエー、オランダは域内の天然ガスやロシア、北アフリカからパイプラインで天然ガスを調達し、供給先が多様化しています。
これに対し、日本の調達市場は寡占化で売り手が限られており、最終的には(相手の言い分を)飲まざるを得ない。足元を見られているんです」
3度にわたる石油ショック時に、官民挙げて原油調達先を中東だけに頼らず、多様化を図るべきだとの意見が出たが、ノド元過ぎればで教訓は全く生かされなかった。
国谷「交渉力をつけるために戦略的に取り組んでこなかったのはなぜなのでしょうか」
野神「日本は安定確保が第一ということで、高い価格であっても消費者に転嫁することでよしとする体制だったことは否定できません。こうした体制に加えて、電力会社の地域独占ということも価格交渉におけるインセンティブ(鼓舞する気持ち)を働きづらくさせていたことが背景にあります」
地域独占にあぐらをかき、何でもかでも突っ込んだ挙句に、利益を積み上げる総括原価方式で決める電力料金がそれを支えてきた。ツケをすべて押しつけられる消費者はたまったものではない。
原発を最大の争点とする衆院総選挙が間もなく公示される。勇ましい中央集権・官僚主導打破も結構だが、まずは具体的な納得できるエネルギー戦略を示して欲しい。
モンブラン
*NHKクローズアップ現代(2012年11月29日放送「『ジャパンプレミアム』を解消せよ~密着 LNG獲得交渉~」