東京都は18日(2012年)、首都直下地震(M7.3)による新たな被害想定を公表した。震源域が従来の想定より10㌔浅くなったため被害も拡大し、一部で震度7、23区 の7割が震度6強と出た。 死者は最大で9700人と06年の想定の1.5倍、被災者2500万人は日本の人口の5分の1だ。
震度7になると、揺れに翻弄されて人は自分の意志では動けないという。高層ビルの中では本棚や家具が凶器になる。木造家屋の倒壊と火災の発生が逃げ道を阻む。沿岸部では液状化と津波。負傷14万7000人、帰宅困難者517万人、避難者339万人、7500台のエレベーターが人を閉じ込める。とくに問題視されるのが木造家屋だ。昭和56年以前の緩い建築基準で建てられた家屋は96万棟で全体の半分にもなり、震度6強で大半が倒壊するとみられる。比較的新しい建築でも,
施工いかんでは危ない。耐震診断では新しい家屋でも「倒壊の危険」とされるものが続出している。
ゼロメートル地帯はマンション協定、新宿の企業人参加訓練
倒壊家屋から発生する火災も脅威だ。地震の火災の特徴は同時多発。シミュレーションでは、住宅密集地の江東、大田、足立区などで火災とがれきで逃げ場を失う人が続出した。想定では消失19万棟。倒壊の死者5400人に対して、火災による死者が4100人にもなる。中林一樹・明治大教授は「家 が倒れるというのは個人の問題ではない。行政の措置もあるが、個々人が責任をもつ部分もある。家を耐震改修することで被害は減るし、家の中では家具の固定もある。火災でも消防車がこられないものとして、初期消火は現場がやるのが原則」という。
今回の想定は「地震は必ず起こる」が前提だ。都民1300万人が何らかの形で被災する。こうなると、 従来のような「助けてもらう」から「立ち向かう」方へ頭を切り替える必要がある。堤防に囲まれた江東のゼロメートル地帯では、土地は満潮の潮位より低い。半世紀前には台風と高潮で何度も水没した。津波が来たらひとたまりもない。そこでいま、一部の自治会は近隣の高層マンションとの間で、廊下などを一時的な避難所として使えるよう協定作りを進めている。マンション側もオートロックを外すなどして対応することになっていて、いくつかのマンションで「2000人分を確保したい」と自治会長は言う。
新宿では企業人が救助活動に動いていた。新宿駅周辺では負傷者1万3000人が想定されているが、区の防災計画では避難所は駅から離れた学校だ。あくまで区民のためで通勤者を考えていなかった。70以上の企業、大学でつくる協議会は、4年前から負傷者救助の訓練を重ねている。ケアは重傷者優先、軽症者は「自分で動く」。協議会の児玉正さんは17年前、阪神淡路大震災を経験した。「首都直下地震は阪神をはるかに上回る。半日や1日は行政が機能しないでしょう。自助と協力。みんなで知恵と汗を流す」という。
今すぐやる「家族の安否確認手はずチェック」「防災訓練に積極参加」
中林教授は「大都市では市民が市民を助ける。動ける人が率先して動くこと。やるべきことは2つ」という。ひとつは、安全確保できた人は会社の仕事を立ち上げる。東京が生きていると世界に発信する。もうひとつは、見知らぬ人でも市民が市民を助けること。事前のこととしては、家族との安否確認の手はずの確認と防災訓練への積極的参加をあげた。「大震災でも資源の7割は残る。これを分かち合い、助け合うことです。3日持ちこたえれば救助が来ます」(中林教授)
今回の被害想定は確かに衝撃だ。といって、おびえていても仕方がない。むしろ、「来るかも知れない」と身構えていることに意味があるのだろう。東日本大震災でも、「津波が来る」と身構えていたら、あれほどの死者は出さなかったと思う。
ヤンヤン
*NHKクローズアップ現代(2012年月日放送「首都直下 震度7の衝撃 ~どう命を守るか~」