リーマンショックのあとに新設された失業者向けの貸し付け制度で、回収不能や闇社会の食い物になる事態が頻発、わずか2年で待ったなしの見直しを迫られている。
派遣切りなどによる失職やホームレスへの転落は、従来のセーフティーネット(失業保険と生活保護)ではカバーでしきれないため、第2のセーフティーネットとして総額1兆円が投じられた。家賃補助や生活支援などさまざまだが、昨年8月(2010年)までに28万人が利用している。なかでも金額枠が大きいのが「総合支援資金」だ。6か月から1年まで最高月20万円が借りられる。保証人があれば無利子、なしでも低金利で、利用は4万4000人にのぼる。その返済がこの1月から始まったのだが、返済開始の通知が宛先不明で大量に戻ってくるなど、自治体によっては7割が回収できない状態。多くが偽の名前や住所で申請されていた可能性が高く、すでに大坂、兵庫、福岡では警察が摘発する事態になっている。
闇社会がホームレス使って申請
NHKの取材がその一端をつかまえていた。大阪市のホームレスの男性(52)は、ホームレス支援団体を名乗る男から「アルバイトをしないか」と声をかけられ、「総合支援資金」の申請を持ちかけられた。この制度は職についていた人の救済策だから、ホームレスでは資格がない。ところが男は他人の住民票や銀行口座を用意して、申請は通ってしまった。月10万円が振り込まれているはずだが、男が管理していて内容はわからない。そのうち、別口まで持ち出されたので、男性は逃げ出し、いまは生活保護を受けているという。
取材は自称支援団体の男にまでたどりついていた。男は「何人もアパートに住まわせ、申請させている」と認めた。「総合支援は金額が大きいがチェックがゆるい。どんな制度をつくってもやり方はある」と堂々としたものだ。
申請総額がいちばん多いのは大阪で、業務は府の社会福祉協議会が行っている。しかし、多いときは月600件にもなる申請を審査しているのはたった7人。定職があった証明が必要だが、給与の源泉徴収票が偽造だったり、会社を訪ねたら空き家だったりで、約1割が却下されている。大量の通知不達からも不正が横行しているのは明らかだ。