医療分野で国境を越える動きが進んでいる。タイでは年間200万人、シンガポールでは57万人、インドでは45万人もの外国人が医療を受けている。患者は自国では受けられない医療を、受け入れ側は外貨獲得と医療レベルのアップになる。
日本政府も先の新成長戦略の中で国際医療交流を打ち出した。2012年から外国人の受け入れを本格化させ、医療産業としてアジアのナンバー1を目指すという戦略だ。「医療ツーリズム」の動きはすでに始まっている。
外国人患者で稼ぐタイ、シンガポール
先ごろ、福島県郡山市の総合南東北病院をサウジアラビアの視察団が訪れた。目当ては世界に30台しかない陽子線を使ったがん治療装置。手術をせず、クスリの副作用もない最先端のがん治療ができる。
岡山県は石井正弘知事が上海に乗り込んで、医療観光をPRした。7泊8日の温泉巡りのうち、2日間を人間ドックにあて、10種類以上の検査を行う。費用はツアー込みで約45万円と高いが、すでに受診した中国人の富裕層は「個人的には高くない」という。県はリピーター需要も視野に入れている。
この分野で突出しているタイ・バンコクの民間病院は、500床全部が個室で、高級ホテル並みのスイートもある。通訳は100人規模、13か国語に対応、入国管理局の出張カウンターもある。欧米経験のある専門医を集め、中東・アジアから年間40万人、250億円を稼ぐ。タイ全体では、将来の市場規模を8000億円とはじいている。
しかし、これらと肩を並べるには、日本の現状は大きく遅れている。事故・院内感染防止などの水準を示す国際認証(JCI)を受けている病院はたったひとつ、千葉・鴨川市の亀田総合病院しかない。これに比べて、タイは12、韓国7、シンガポール17、インド16だ。
亀田総合病院は年間700人の外国人を受け入れているが、「グローバル・スタンダードとの差の大きさに愕然とする。このままだとガラパゴスになってしまう。いや、もうなっている」という。