「エンドファイト」微生物で育てる作物―肥料・農薬いっさい不要

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   青森・弘前のリンゴ農家、 木村秋則さんは肥料も農薬も一切使わない。リンゴは病気や害虫が多く、肥料・農薬なしでは栽培が難しいといわれるが、木村さんは10年以上の試行錯誤の末、これに成功した。

   カギは自然の森のような土を再現することだった。弘前大の杉山修一教授はこの土には微生物が多く、「土が分解され発酵していい匂いがする」と言う。木村さんも「肥料やった木より元気がいい。元気を超えてる」

   リンゴの葉の中にも微生物が入り込んでいて、これが成長力を高め、病害虫への抵抗力を強めているのだ。微生物が植物の内部に入ることで、植物の中で眠っていた遺伝子が働きはじめるのだという。

   これがいま注目されている「エンドファイト」。「エンド」は内側、「ファイト」は植物のことで、植物の内部に入り込む微生物という意味。種類が多いので総称である。

   これを農業に生かそうという動きもある。茨城大の成澤才彦准教授は全国各地から600のサンプルを集めて、効果の高いエンドファイトを探した結果、屋久島のものが最良だった。これを使うとトマトの生長が著しく早くなるほか、白菜の連作障害も防ぐことができた。

   成澤准教授は「化学肥料は多様性をそこなってきた。微生物によって植物が本来持っていた力を引き出し、化学肥料の要らない栽培を可能にする」 として、さらに「スーパーエンドファイト」を探している。

   百町満朗・岐阜大教授は「環境保全型農業は有害生物を生物で防除するという考え。これでエンド ファイトが注目されている。ただ、微生物のことはまだほとんどわかっていない」のだという。

ニュージーランドでは実用化

   一足先に実用化しているのがニュージーランドだ。すでに一般的な牧草の80%にエンドファイトが使われ、牧草の育成がよくなり害虫も駆除。食肉の生産は3割も伸びた。経済効果は140億円といわれる。

   きっかけは1980年代に起こった家畜の中毒だった。調べると、牧草の中の微生物が原因とわかった。そこで世界中の牧草を集めて微生物の研究がおこなわれ、その中からみつけたのがエンドファイトだった。

   「30年にわたるサクセス・ストーリーだ」と、開発したアグリサーチ社はいう。同社のエンドファイトは豪州、米、アルゼンチンへも輸出されており、今後は穀物への利用も考えているという。

   日本でも実用化が始まっている。北海道・美唄市のコメづくり農家、76戸が挑戦中だ。田植え前の苗に1回散布するだけ。農薬を半減したが、この夏の猛暑で発生したいもち病被害が他の水田の6割以下に抑えられた。農協では来年から本格的に取り組むという。

   森本健成アナが「期待は大きいが、安全性は?」と百町教授に聞いた。

「農薬として認められるには、農水相のガイドラインがあるから安全だと思いますが、消費者に伝える必要はあるでしょう。また、特定の微生物を大量に投入すると、生態系のかく乱があるかもしれない。しかし、自然の仕組みを生かす道は魅力的。環境保全型農業確率の第一歩になると考えられます」

   名古屋で開かれた生物多様性条約締約国会議(COP10)でも、生物と農業の関わりが視野に入っていた。し かし、化学肥料と農薬の負の遺産である環境汚染の深刻さを途上国に伝えるのは容易ではない。ここは一刻も早く結果を出すしかないだろう。

*NHKクローズアップ現代(2010年11月01日放送「微生物とつながる農業」
文   ヤンヤン
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