「移民排斥」強まるアメリカ―仕事奪われる不安背景に各州が「取締法」

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   アメリカは建国以来、移民の力を原動力に繁栄してきたといわれる。現在、就労許可を持たない不法移民は、ヒスパニック系を中心に約1100万人に上り、「農場、工場などで安い賃金の労働力として、経済、人々の生活を底辺で支えている」(国谷裕子キャスター)。ところがここにきて、彼らを排除しようとする「反移民」の動きが広がっているという。

   番組は先ず、メキシコと国境を接し、州人口の1割、50万人の不法移民を抱えるアリゾナ州の状況を伝える。ことし(2010年)4月、同州は不法移民の摘発を強化する移民取締法を制定した。これによって、警察官は疑わしい人物に運転免許証などの提示を求められるだけでなく、身柄拘束が可能になる。治安の悪化や移民の教育、医療サービスに費やされる州の支出が1000億円を超え、保守中間層が負担が大だと主張した結果であった。

   オバマ政権は人種差別を助長しかねないとして、この州法の差し止めを求める訴えを起こしたが、アリゾナ州は施行を目指す姿勢を崩していない。こうした「反移民法」制定への流れは、23の州に拡大中だ。さらに共和党からは、アメリカで生まれた子はすべてアメリカの市民権を得られるとした憲法の条項を見直す動きも出ているという。

不法移民なくして成り立たない米国経済

   コロンビア大学のトーマス・エドサル教授(元ワシントンポスト記者)は、「反移民」の傾向が強まっている要因をこう説明する。

――目下の不況で中高年の労働者階級、低所得層は、自分たちの仕事を賃金の安い外国人に奪われ、2度と就労できないのではと懸念している。白人たちは、移民へのより強い対立意識、不安感、大きな怒りを募らせている――

   だが、不法移民なくしてアメリカの存続が難しいのも事実のようだ。教授は話す。

「高齢化が進み、政府の給付金に頼る年金生活者が増えている。が、こうした人を養う労働力があまりに少ない。移民の存在は政府の新たな財源になっている。アメリカで働いて納税する移民は社会保障の維持に大きく貢献している。そのことに多くのアメリカ人が気づいていない」

   オバマ大統領は就任前、不法移民の合法化に道を開くことを約束して、アメリカの市民権を持つ4000万人のヒスパニック系などの支持を得て選挙に勝利した。しかし就任後、「反移民」が広まるにつれ、30万人を国外退去させたり、国境地帯に1200人の州兵を増派するなど、改革に反発する保守派に配慮した政策を前面に打ち出している。11月の中間選挙を控えて、大統領は「移民法は改革しなければならない。ただ、国境地帯の取り締まりと不法移民を暗闇から出すことの両方が必要だ」と発言している。ブレているのだ。

   エドサル教授によれば、「反移民」の背景には2つの文化の衝突がある。これは「自由な国アメリカ」「移民で成り立ってきたアメリカ」の根幹に関わる問題として、今後より深刻になっていくと見る。

   「オバマに知らしめる」と叫ぶアリゾナ州の女性知事の迫力がすごい。大統領の元気のなさとは対照的だった。中間選挙の行方はどうなるのだろうか

アレマ

NHKクローズアップ現代(2010年9月30日放送「アメリカ 激化する『反移民』」)

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