鉄の原料である鉄鉱石の高騰で、鉄鋼業界はいま「下流」に行くほど深刻な影響が広がっている。
とくに、中小・中堅鉄骨加工メーカーは、「仕事がないうえ、鋼材の値上がりと資金負担増がのしかかり、まさに三重苦状態に置かれて打つ手なし」と悲鳴を上げている。原因は日本を抜いて粗鋼生産世界一に躍り出た中国の急激な需要拡大にある。
鉄鉱石高騰の舞台裏でいったい何が起きているのか。世界のプライスリーダーだった日本の鉄鋼業界に突き付けられた課題を探った。
中国のインド買い付けで急騰
世界の鉄鉱石のシェアは、世界有数の産地ブラジルの「ヴァーレ」(シェア32%)と豪州のリオ・ティント(同22%)、BHPビリトン(同16%)の3大資源会社で7割を握っている。
これまで、その最大の得意先が日本の鉄鋼メーカーで、価格交渉は年1回、新日鉄がこの3大資源会社との話し合いで決め、それが国際標準となっていた。その価格も長い間、1トン当たり15ドルから20ドルという安値で安定推移しており、日本のモノづくりの土台を支えていた。
それに変化が生じたのは2005年ごろからで、鉄鉱石の価格が急上昇し始めたのだ。リーマンショックでいったんは下がったものの再び上昇、今年7月には1トン当たり147ドルに高騰している。
価格高騰をもたらしたのは、年率10%台の経済成長を続ける中国。粗鋼生産で世界の半分を占める中国が鉄鉱石を買いあさり、価格高騰を引き起こしているのだ。
中国の買いあさりは、これまで日本の鉄鋼メーカーがリーダー役になって、資源会社との間に確立していた取引ルールを根底から覆す変化をもたらした。3大資源会社からの買い付けでは足りない中国が、インドの鉄鉱石に目をつけ、買い付けを始めたのがそのきっかけだった。
インドとの取引価格は新日鉄と3大資源会社が主導した国際標準価格に縛られず、需要に応じて自由に設定できる。そのため、インドの鉄鉱石価格が急上昇、国際標準価格の2倍以上に跳ね上がった。
これを3大資源会社が指をくわえて見ているわけはない。「国際標準価格は実態に合わない」と、今年3月一方的に破棄を通告、中国のインドからの買い付け価格を基準に3か月に1度見直す決定を行ったのである。