<テレビウォッチ>いま飛んでいる山崎直子さんまで、30年間に日本人宇宙飛行士7人を運んだスペースシャトルが今年で退役する。オバマ大統領が先に打ち出した戦略では、以後15年間、アメリカは有人宇宙船を持たない。宇宙開発の主導権を失うかもしれない重大な岐路でもある。
火星計画
オバマ構想は、2025年までに長期旅行が可能な新型宇宙船を開発し、2030年代には月を越えて火星に人を送る、というものだ。しかし同時に彼は、「基礎から技術力を高めることがもっとも重要だ」ともいった。
この意味合いを専門家は、「これまで目前のシャトルに予算を使い果たして、新しい技術を開発してこなかった。技術者も育っていない。いま引き出しは空っぽ」と解説した。
スペースシャトルは何度も使える低コストの宇宙船のはずだった。が、帰還後の修理や点検に予想以上の金がかかり、1回当たりの費用は数百億円と、見込みの10倍以上になった。
03年2月のコロンビア号の事故後はさらに安全確保に費用がかさみ、ブッシュ政権は2010年の退役を決めていた。代わりに、2012年までに新しい有人宇宙船を開発し、月面に基地を建設するという計画を出した。
しかし、この新型宇宙船のロケットに予想外の振動が発生し、予算もつかないため、開発が3年以上も遅れていた。ためにオバマ政権はこの2月、計画の中止を決め、代わりに打ち出したのが火星計画だった。
重要なのは、大統領が「技術を基礎から」といった点だ。森本健成キャスターも「今後10数年の空白と30年間技術が進歩していなかったとは、驚いた」といった。
初の日本人宇宙飛行士の毛利衛・日本科学未来館館長は、「それだけスペースシャトルが進んでいたということ。だがそれに甘んじて、新しいものができなかった。アメリカにとって非常に厳しい状況だ」といった。
ロシア頼み
こうした中で存在感を増しているのがロシアだ。国際宇宙ステーションへの人員輸送は、ソユーズが唯一の手段になる。アメリカも日本もロシア頼みになれば、宇宙ステーションの運用もロシア主導になるのは避けられそうにない。ロシアは民間人を宇宙に送るビジネスにもして、さらに、独自の月や火星への有人探査も着々と開発を進めている。すでに長期滞在の地上実験・訓練も行っているという。
こうした状況は日本の宇宙開発にも影響しそうだ。日本の技術はNASAから学んだものだが、昨年9月にはH2Bロケットで無人宇宙輸送船の打ち上げに成功して、日本の技術力の高さを世界に示した。問題はその次だ。
月面に探査機を送る。宇宙ステーションには今後10年間ソユーズで人を送る。ここまではあるのだが、その後をどうするか。議論は始まったが、宇宙開発戦略本部は明確な方向性を出していない。苦しい財政状況も影を落とす。毛利館長は「トップになったということは、自分で目標を見つける時期にきたということ。日本は等身大の宇宙開発の姿を描く必要がある。単なる科学研究ではなく、日本の将来のための戦略を」という。
これでだれもが思い出すのは、昨年の事業仕分けだろう。財源確保の仕分け人の目は宇宙開発に冷たかった。国民の多くにとっても宇宙は遠い。まあ宇宙時間からいえば、10年20年の遅れなんぞは瞬く間だろうが……。
ヤンヤン
*NHKクローズアップ現代(2010年4月19日放送)