<テレビウォッチ>国家的に人を誘拐するなど、まったくの狂気に支配されたような「無法者」の顔もあれば、ミサイルや核実験を使った危険な遊びを狡猾にプレイしてみせるなど、北朝鮮はじつに奥深い、底知れぬ不気味さをたたえている。
それにしても、最近はこれまでとはプレイスタイルが明らかに違ってきたのだ。ワンストライク入れたらワンボール、とばかり、国際社会の反応を伺い、話し合う用意があるように見せて、なにか見返りを期待してるのかと思わせたが、いまや直球で一気に三球三振を狙いに来そうな勢いである。
アメリカの対応に反発?
これは本気で本格的に核保有するつもりなのか。健康不安を抱える金正日総書記が焦っているのか、じつは苦し紛れの最後っ屁ではないか。国内で強硬派の権力が増してるのではないか。それにしても後継者は誰なんだろう云々。視聴者的には北朝鮮ロイヤルファミリーの家庭内事情やらにまで、日に日に詳しくなってしまう毎日である。
今回のクローズアップ現代も北朝鮮特集だ。「北朝鮮 加速する危機~どうする国際社会~」。北朝鮮は何を考えているのか、国際社会はどう対応すべきなのか――。
韓国政府の北朝鮮政策立案に関わるソガン大学のキム・ヨンス教授の見方は、北朝鮮の安全保障戦略は「新たな段階」に入ったというもの。各国の出方に対応するのではなく、「主導的に自衛の道を確保する道」を選びだした。その理由のひとつには、アメリカの対応がある。就任当初、北朝鮮との対話に前向きと見られたオバマ大統領が国内の経済問題や中東アフガン問題にかまけて、北朝鮮を無視する格好に。誇り高き北朝鮮はこれをバカにされたと考えて、アメリカと有利に交渉するには自分の力を高める(核保有国になる)しかないと判断したそうである。
一方、スタジオゲストの李鍾元・立教大学教授は「北朝鮮が強硬論で突き進む可能性は高まってる」としながらも、「軍事的な論理だけで、これからも核保有に突き進むのか、依然として核カードの面があるのかは、もう少し見る余地がある」と見る。金正日が後継体制の盤石化を図るのであれば、軍事面と同様に、対米関係の改善、それにともなう政治経済面のメリットもまた大きいはずで、北はその両面を考慮しなければならないからである。
専門家の意見も分かれるなか、視聴者が断片的な情報をもとに「北朝鮮は何を考えてるのか」と考えてみたところで、さっぱりわからない。ハンニバル・レクター博士を探りに行って、逆に見つめ返されたような不気味さが増すばかりではあった。
ボンド柳生
* NHKクローズアップ現代(2009年6月2日放送)