『ノーベル賞候補』と呼ばれる人々が、この番組には何人も登場している。今回のプロフェッショナルもその1人。東京工業大学の教授・細野秀雄。材料科学と呼ばれる分野でノーベル賞を目指す。
現代の錬金術、とも呼ばれるらしいこの分野。自然に存在する元素同士を掛け合わせて、全く新しい物質を生み出す。例えば、小学校の時にグラウンドに白線を引くときに使った『石灰』と『アルミナ』という物質を掛け合わせる。これが、次世代テレビのディスプレイに必要な物質に変わるという。
「ある物質とある物質があったときに、全然違うものが出来るというところに、物を扱っている時の興味ってあるんですよ」
細野の仕事の流儀は、「勝てる科学者であれ」。学会では、だれが先に発見して発表するかが1番重要なのだという。
「エンジョイだけで仕事なんてしたら勝てないですよ。『エンジョイ』+『[勝てる』ということが、僕はプロの研究だと思う。そうじゃなかったら研究やってもしょうがない。『エンジョイ』だけだったら、科学愛好家ですよ」
科学の分野がシビアなのは、後追いでは全く意味がないということ。研究でも開発でも、誰かの先を行き、旗を振り続けなければ存在をアピールできない。だが、急ぐあまりに早とちりした情報を発表してしまい、学会で謝罪したこともあるという。
新しい発見を誰よりも速く。独特な緊張感が漂うなかで、人はおそらく焦りと不安に近い心境になるのだろう。極端な話だが、むかし、新発見という名誉のうま味を味わいたくて自分で石器を埋めていた考古学研究者がいた。早さを競うということは、本来正確さが何よりも大切であるはずの学術界で矛盾しているのではないか。
細野達は、もちろんフェアなルールの中での競争のことを言っているのだろう。だが「『勝てる』科学者」という言葉を聞いたときに、私は少し違和感を覚えた。
がくちゃん
* NHKプロフェッショナル 仕事の流儀(2009年5月26日放送)