映画「おくりびと」(滝田洋二郎監督)が、日本映画で初めて「アカデミー賞外国語映画賞」を獲った。死者をひつぎに納める納棺師の物語である。直木賞を受賞した小説「悼む人」(天童荒太)は、25万部を超えるベストセラーになった。関わりのない他人を悼んで歩く男の話。
ともに「死」をテーマに「生」と向き合う内容だ。無差別殺人など凶悪事件が続き、自殺者3万人というなかでいま、2つの作品への共感の輪がひろがっているという。日本人の死生観が変わりつつあるのだろうか。
「弱者・敗者へのやさしさ」
「おくりびと」は、主演の本木雅弘(43)の企画だ。かつてアイドルだった。「無気力、無関心、無感動といわれた世代。死をリアリティーをもって見たこともなく、生きるリアリティーも薄れてしまう」(本木)
27歳のときインド・ガンジス川のほとりで死者の火葬をみた。死者を悼む人たちのまわりを子どもたちが走りまわっていた。「違和感があった。ある意味過酷だと思った」。帰国後、1冊の本に出会う。「納棺夫日記」(青木新門著)。これが映画「おくりびと」の始まりだった。
本木は青木の話を聞き、実際の納棺に立ち会った。「緊迫した空気はあるが、もっとやさしいオーラみたいなものが包んでいる。喜びや安心感があった」
納棺師の青木は言う。「納棺は先に逝った者と残された者のコミュニケーションの場だが、いま臨終にも間に合わない、納棺にもこない。それが現代。映画はそれを気づかせた」と。
文化人類学者の中沢新一・多摩美大芸術人類学研究所長は、「お正月とお盆は、死者をむかえる儀式でしょ。死者への畏敬、弱者・敗者へのやさしさがある。いままでこの領域のことは出てこなかったが、(映画で)一気に表に出た」という。
「映画で、生前関係が必ずしもよくなかった人を、受け容れるようになるのがあった」と国谷裕子。
中沢所長は、「きれいに化粧をすると、2人を客観的に照らすことになる。自分の葛藤、亡くなった人の立場。2人の関係が完成に向かうのではないか」という。