何度もいうようだが、雑誌には、ツキがある雑誌とツキのない雑誌がある。元厚生省事務次官とその妻を殺傷した小泉毅が警視庁に出頭したのが3連休初日の11月22日、土曜日の夜だったことで、週刊誌の明暗がくっきりと分かれてしまった。
新聞広告見出しには…
月曜日が休日のため、締め切りを早め(木曜日から水曜日)、土曜日発売にしたポストと現代の両編集長は、テレビの緊急速報を見ながら、己のツキの無さをぼやいたに違いない。
私が編集長のとき、「酒鬼薔薇聖斗事件」が起きた。犯行声明文の内容から、教養程度の高い中年男の犯行ではないかなどと「推理」して校了にしたが、その週末に逮捕されたのは、14歳の少年だった。タクシーのラジオから流れるニュースを聞きながら、辛い1週間になるなと肩を落とした思い出がある。
「連続年金テロ『天誅の時代』犯行声明文入手!」(ポスト)「テロリストの正体」(現代)。雑誌屋育ちゆえの不謹慎ないい方をお許しいただきたいが、事件発生は絶好のタイミングだった。文春、新潮は地団駄を踏んで悔しがっているに違いない。それゆけ!勇んで総力取材したのであろう。しかし、出たその日の夜に、「子供の頃可愛がっていた犬を保健所に殺されたことを恨んで」という、わけのわからない男が出頭するとは。
朝日は、火曜日発売だが、こちらも連休のため、締め切りを早めていたのだろう。誌面は「『年金テロ』全情報」などという力のこもらないタイトルだが、これではまずいと山口編集長は考えたのだろう。新聞広告は火曜日の朝刊である。そこで、奸計といっては失礼だが、新聞のタイトルをこう直した。
「小泉毅容疑者(46)逮捕で急展開 『厚生元次官テロ』全情報」として、小見出しに、「隠された『動機』、いまだ残る『謎』」「『年金テロ』ではなく、『個人的怨恨』か」「襲撃犯の『揺るぎない決意』と『計画性』」などを並べた。しかし、記事中にこの見出しはない。新聞読者の中には、これなら、逮捕されてからの情報も載っているのではと買った人もいるだろう。私のような元同業者は、だまされたと怒らないでほしいと、編集長に成り代わって頭を下げて回りたいくらいだ。何とかして、自分の雑誌を手にとってほしいと考えた末のギリギリの選択である。私も何度かこの手を使ったことがある。