教育の現場でとんでもないことが起こっている。予算削減で教員を減らし、その穴を非正規教員で埋めているというのだ。産業は派遣社員でもっているようなものだが、教育の世界までがそうなのか。
非正規教員とは、教員免許はもっているが、教員採用試験に合格していない教師のことだ。収入も正規教員の半分。雇用も不安定で最長でも1年契約で、年度の途中で打ちきられることもある。国谷裕子は、「正確な数はわからないが、公立の小中学校で少なくとも9万人、全体の14%にのぼる」といった。
「学習塾でバイト」しないと食べていけない
小泉首相の三位一体改革で、国は自治体に公務員削減を求め、一方で少人数学級などきめ細かな教育も求めた。この矛盾を切り抜ける手段が非正規教員だという。
広島市内・公立中学の非常勤講師松浦佑紀(23)は、昨(2007)年大学を卒業したが、まだ採用試験に合格していない。給料は時間単位、ひとコマ2500円。ボーナスや手当もないので、年収は正規教員の半分の170万円だ。
この学校では44人の教員のうち13人が非正規だ。広島県は財政事情から全国に先駆けて教員削減を進め、2002―07年の間に1200人を減らし、代わりに非正規教員を700人増やした。一方国が求める教育改革で、広島市では習熟度別授業でクラスを2つに分け、先生1人に生徒20人態勢を進めようとしている。それに必要な教員200人はすべて非正規をあてる方針だ。松浦佑紀もその1人というわけだ。
しかし、彼は授業が終わると早々に学校を後にする。学習塾でのアルバイトをしないと食べていけないからだ。帰宅してからも、学校でのテストの採点などをするが、手当はつかない。「生徒たちと一日中一緒にいたいが、できないのが寂しい」という。
「国が責任を持って負担すべきだ」
取材したNHK広島の戸来久雄記者は、「パートタイムで4つの学校を行ったり来たりの人もいた。しかし、みな正規採用を目指しているが、やめていく人も多い」という。国谷は、「非正規教員がふえて、教育の質は保たれるのか?」と藤田英典・国際基督教大学教授に聞いた。
藤田教授は、「質の低下はありうる」として、(1)非正規教員は研修の機会もなく、力量があっても発揮できない、(2)他の教師との連携が弱い、(3)専任教師の負担が重くなる、などをあげた。
元をたどれば財政問題だ。三位一体改革では、義務教育への国庫負担が2分の1から3分の1に減らされ、減った分は交付税として自治体にいってはいるのだが、非正規教員で浮いた予算を他にまわすというのが実情だという。
現に広島県内で、病気で欠けた理科教師の代わりが見つからず、自習を続けたあげく中間試験を見送った学校。数学の教師の穴を保健体育の教師が埋めた話があった。一方東京・杉並区は、区独自に教員研修を行って採用。プラスの配置で30人学級を増やしたりしている。財政力によるとんでもない格差……。
藤田教授は、「義務教育はライフライン。予算は国が責任を持って負担すべきだ。金も人手もかけずでは、質が保てまい」という。
教育改革は、安倍首相(当時)がイギリスのサッチャー改革を範として進めたものだ。が、サッチャーの政策は教育現場を荒廃させたとして、ブレア首相(当時)が建て直しに着手した。決め手は巨額の予算投入だった。
ヤンヤン
*NHKクローズアップ現代(2008年11月6日放送)