「過去の悩み」が生きるとき 落語家に学ぶ

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   コントや漫才などが『一般的な』芸能だとしたら、いまや落語は『高尚な』芸能だと言えるかもしれない。

   座布団の上で正座をし、使う小道具といえば扇子と手ぬぐいのみ。それなのに聞き手は噺だけで様々な場面を連想し、感情や温度までを感じることができる。今回のゲスト、柳家小三治ほどの名人が話す落語は、下手な映像を見るよりもリアルな体験ができる。

   小三治は子供の頃から人を笑わせることが好きだった。高校時代にラジオの落語番組で15週勝ち抜いたことで自信をつけた。そして柳家小さんに弟子入りする。次第に人気も高まった。しかしある日、師匠から言われた一言は「お前の噺は、面白くねぇな」。

   自信があったはずの芸を全否定された訳だ。だがやる気が失せることはなかったという。

   「やりたくって入った道ですから。落語がどうやったら面白くなるんだ、とか面白いに繋がるようなことを考えた。でもねぇ、遅々として進まないものでしたよ」

   そして何年もたったある日、古今亭志ん生の言葉に出会う。「落語を面白くするには、面白くしようとしないことだ」。なるほど、とその言葉を実践に移した。

   スタジオでのやりとりに、芸とはなにかのヒントがあった。小三治は茂木に問いかけた。

   「150ほどの落語を覚えたのに今できるのは30ほど。あとはどうなった?」

   茂木は「情報としては忘れてても、そのときにお考えになった間合いとかリズムとかは残っているはずなんですよ。それが芸になっていくんじゃないかと思います」。

   ちょっと粋な答えではないか。積み重ねてきたものはちゃんと残っていて、知らないうちに自分の味になる。名人の落語が素晴らしいのは、過去の悩みや葛藤があるからこそ、なのだろう。

慶応大学 がくちゃん

   *NHKプロフェッショナル 仕事の流儀(2008年10月14日放送)

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