(C)2008「百万円と苦虫女」製作委員会
<百万円と苦虫女>アルバイト生活を送っていた鈴子は、ある事件がきっかけで実家を離れ見知らぬ土地へ引っ越すことを決心する。そして貯金が百万円になるごとにまた引っ越す。そんな放浪の旅に出た彼女は、各地で色々な人々に出会い、成長していく。
鈴子はちょっと斜に構えていながら、ナイーブで純朴な等身大の女の子として描かれている。地味で、人と接するのが苦手な主人公に共感できる人は多いのではないだろうか。その鈴子を演じた蒼井優の苦虫を噛み潰したような笑顔がとても印象深い。不愉快なときの表情をこれだけ自然に、また魅力的にできるのは蒼井優しかいないのではないか。
他にも、1人で部屋にいるシーンが何度かあるのだが、表情と雰囲気だけで観客を引き込むような自然体の演技をしている。蒼井優の鈴子はかなりのはまり役だ。
そして、森山未來やピエール瀧が演じたシャイで不器用な男達など、この映画では地味な人間がとても上手く描かれている。彼らの行動に微笑ましくなったり、じれったくなったりして、観客はいつの間にか感情移入している。どこにでもいそうだが愛すべきキャラクターたちだ。
旅の中で鈴子は、海の家、山間の農家、地方都市を転々とし、行く先々で人間関係に癒され、悩まされる。それぞれの場所で、様々な人間と社会を皮肉っぽくコミカルに描き出している。海の家にいたナンパ男や農村のお堅い老人達など、ステレオタイプで過剰な演出に見えなくもないが、リアルに描かれた鈴子との対比がきいていて、彼女の性格やナイーブな心情を際出たせている。脚本も担当した監督タナダユキの人間描写とビターな味付けは癖になるかもしれない。
ジャナ専 ぷー(JJC漫画研究会部長)
オススメ度:☆☆☆