(C)2008『ぐるりのこと。』プロデューサーズ
<ぐるりのこと。>人が誰かとの絆を感じるとき。それは、恋人であったり家族であったり友達であったりとそれぞれ違う。
翔子(木村多江)とカナオ(リリー・フランキー)の場合は夫婦の絆であり、映画ではふたりの10年間の軌跡が1993年からの日本の時代の移り変わりとともに描かれる。ふたりは学生時代からの付き合いで、くっついたり離れたりしながらもめでたく結婚することになる。しかし、ふたりの間にできた子供はすぐに死んでしまい、翔子はしだいに精神のバランスを崩し始めていく。
子供を亡くしたことやいつものほほんとしているカナオに対する不安。自分の周りのバランスがごちゃ混ぜになったとき、翔子は泣き崩れながら言う。「どうして私といるの? どうして一緒なの?」。それに対してカナオは「好きだから。好きだから一緒にいるんだよ」と答える。とてもシンプルな答えだが、常にのほほんとして声を荒げることもないカナオだからこその人間の芯の強さがそこに込められていた。
90年代は、阪神大震災、地下鉄サリン事件、幼女誘拐殺人事件などで日本の社会が大きく揺れ動いていた。そんな時代をカナオは法廷画家としてみつめ、描いていく。
表面では何も変化していないように見えるカナオでも、心の内では何かが確実に変化している。その何かは、精神を病んだ翔子を想う気持ちであり、人を愛する気持ちが色濃くなったものに他ならない。
人と人とのつながりが希薄になっている今だからこそ、カナオと翔子のような絆のつながりは強く新鮮に感じることができるのだ。
ジャナ専 銀杏BOY
オススメ度:☆☆☆☆