「いのちの食べかた」
頭切られて腹裂かれる・・・牛や豚の「加工」現場、生々しく

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   原題「OUR DAILY BREAD」(われら日々の糧)は聖書の言葉。我々の食卓に上る食材を生み、届ける現場を描いたドキュメンタリー作品だ。ナレーションは一切無し。ドイツ・オーストリア映画だけに話し言葉はドイツ語と、労働現場のトルコ人やアフリカから来た黒人の言語で全く理解できず、字幕も無い。一風変った記録映画だ。


   人間が生きて行くために食物として供される肉、野菜、魚、果物の数々。これらの食材はどのように生産され、どのように加工され我々の食卓にのぼるのだろうか?

   例えば牛や豚、鳥などの肉類は300万トン。何万羽ものヒヨコが、鶏が、ベルトコンベアや動く金属の溝で運ばれ、足を吊られ、羽根をむしられ、頭をちょん切られ、続々と加工される。ヒョウキンな顔をして鼻を突き出している豚も次々と殺され、宙吊りで腹を裂かれて内臓が飛び出す。足を切りとり、内臓を選り分ける作業員たちの、無表情、無感動で淡々と仕事を進める光景が何とも不気味だ。

   牛の場合はもっと残酷だ。大きな体をカプセルに押し込まれ、優しい目をした可愛い顔を閉所から出しているところを、コテのようなもので額にショックを与えられ悶絶。死亡を確認後、宙吊りにされ解体される。喉から腹に刃物を入れると滝のように噴出して流れる血。解体人は慣れた手つきで、浴びた血をホースで洗い流す。

   動物を扱った劇映画の最後には必ず「ここで使われた動物の殺傷はいたしておりません」と添え書きが出るが、この映画では何万頭という動物が殺されている。だからそんな添え書きは当然出て来ない。

   食材が魚や野菜になると救われる。特に一本一本とキュウリをもぐ、樹からリンゴを切りとる、キャベツを根から離しナイロンでパックする、木にたわわになったナツメヤシを機械で揺すり落とすなどのシーンは何故かホッとする。ともかく血が流れないからだ。

   豚の手足を鋭利なはさみで切り落としていた女性作業員が、昼のサンドイッチを黙々と食べているシーンが映し出される。残酷なことをしたという表情も無く、正面のカメラを見据え美味しそうにぱくつく昼食。「食物連鎖」の頂点は人間だとつくづく思い知らされる映画だ。パリ、アテネなどの環境映画祭でグランプリを受賞している。

恵介
★★★★☆
いのちの食べかた(OUR DAILY BREAD)
2005年ドイツ・オーストリア映画、エスパース・サロウ配給、1時間32分、2007年11月10日公開
監督:ニコラウス・ゲイハルター
公式サイト:http://www.espace-sarou.co.jp/inochi/
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