このドキュメンタリー「ヴォイス・オブ・ヘドウィグ」の前提になっているのは、オフ・ブロードウェイのミュージカルで映画にもなった「ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ」。東独のロック歌手ヘドウィグが性転換するが、下手な医師のせいで彼の6インチのコックは1インチ残ってしまった――ジョン・キャメロン・ミッチェルが書いてオフ・ブロードウェイで演出・主演し、スティーブン・トラスクの楽曲が注目を浴びた。01年の映画化では大ヒットを飛ばした。人と人を繋ぐのが音楽だというのがテーマ。キャメロン監督は映画「ショートバス」では、音楽をセックスに置き換え9.11以降の荒んだ人間関係の修復を図った。
「ヴォイス・オブ・ヘドウィグ」では「ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ」のナンバーをオノ・ヨーコを始め12の歌手やグループが歌う。目的はアルバム「ウィッグ・イン・ア・ボックス」を作成し、その収益をある学校に寄付することだ。NYにあるその学校とは「ハーベイ・ミルク・ハイスクール」という、世の中で苛められ差別を受けているLGBTQ(レズ、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー、クィア)の高校生を受け入れる施設。
寄付を受けるその学校の生徒たちが各パーフォーマーの収録シーンの間に、自分たちの生い立ち、考え方、世間との壁などをカメラに向かってあからさまにぶちまける。自分の家族を含め社会から性的弱者の差別を受け苛められた告白は被害者だけに迫力がある。
ミュージカルや映画が成功したように12の歌手たちが歌うトラスクの曲は美しくパンチがあり、それを聞いているだけで楽しい。子供たちやキャメロン、トラスクも映画の中でゲイへの差別の撤廃を訴えている。この作品の女性監督キャサリン・リントンは長らくレズビアンのTV番組のプロデュースに携わってきた。目の前の事実を淡々と描きながら同性愛者たちに暖かな眼差しを送る。
びっくりするのは日本と違い、堂々と自分はゲイだ、レズだ、とカミングアウトしている勇気だ。見る前は何か気の乗らない映画だったが、見始めるとぐんぐん引き込まれる。ゲイの生徒たちもセンスが良いし、実際カンボジア人のレズのメイ・バンはトップモデルにもなっている。
公開される劇場はアート系佳作にこだわるライさんのライズX。渋谷のシネマライズの隣の劇場だ。シネマライズでは「ショートバス」を上映するから、「はしご」をすればミッチェルとリントン両監督の共通の意図が分かろうというものだ。
2006年アメリカ映画、アップリンク配給、1時間50分
監督:キャサリン・リントン
出演:ジョン・キャメロン・ミッチェル / オノ・ヨーコ
公式サイト:http://www.uplink.co.jp/voiceofhedwig/