ドキュメンタリー映画の暴れん坊、マイケル・ムーア監督の新作が8月25日に公開される。題名は「シッコ」、シックからの派生語で、アメリカの医療保険制度を告発して「破綻しているだけでなく病んでる」(ムーア監督)という意味だそうだ。
映画レポーターのおすぎが登場。「ムーアって決していい人じゃないと思うけど、こういう人がいるのはいいのかなと」と。やっぱりイケメンじゃないとすんなりとは誉めない。
ムーアといえば、突撃アポなし取材が売り。銃社会を告発して、チャールトン・ヘストンに突撃した「ボウリング・フォー・コロンバイン」でアカデミー賞。「華氏911」ではブッシュ大統領に肉薄して、カンヌでパルムドールと、反権力の闘士のイメージだが、今回のテーマはちょっと意外だ。
アメリカの医療保険は、日本と違って民間の保険会社との任意の契約が土台。そこで、医師が治療・投薬で保険の支出を抑えると、保険会社から医師に報酬が出る。その結果、保険に入っているのに満足な治療が受けられないという問題がいたるところで起こっている。
映画が、保険への苦情を募ったところ、一週間で25000件ものメールが来たという。それらの現場を、例によってムーア監督が走り回る。また、カナダ、イギリス、フランスの医療保険制度(基本的に無料)も取材して比較するという、これまでにない手法も取り入れている。WHOの充実度ランクでも、アメリカは37位だ。
9.11で救助活動にあたって健康を害したが、十分な治療をうけられない人たちを、キューバのグアンタナモ基地に連れていく。なぜかというと、収監されているアルカイダのテロ容疑者たちが、無償で手厚い医療を受けているからだ。「9.11の救助員にアルカイダ並の医療を」と洋上のボートからマイクで呼びかけるムーア監督。話はわかりやすい。
笠井信輔が「面白く観た。ムーアもメジャーになった。が、これまでのムーアらしくない」といえば、おすぎは「権威になっちゃったのよ」「作り方がとってもうまいんだよね。面白くしちゃうしさ」
取材を受ける保険会社が作ったというムーア対策マニュアルがおもしろい。
(1)医療や政治の話になったら、話を断ち切る
(2)それでもダメなら、(ムーアがファンの)デトロイト・タイガースの話に
(3)さらに、ダイエットの成果を誉めること
ムーア監督は20キロのダイエットに成功しているのだと。たしかにこれまでよりすっきりしていて、髪型までが違う。これでまた、盛り上がった。
「髪型がずいぶん変になっていた」(笠井)
「それよりも、風格が出てきちゃって、突撃もテクニックが高度になっている」(おすぎ)
「いい人になっちゃって、自分が嫌な感じに見えるところを、あまり見せない」(笠井)
「フランスへいったりするんだけど、そこの税金が高いとか、自分に都合の悪いところは隠しちゃってるとか、そこがこいつのずるいところ」(おすぎ)
「ほかの国のことに関心のないアメリカ人が、ほかの国に目を向けている」(佐々木恭子)
今回は権力者との直接対決を避けたようだが、ムーア監督は「見終わって自分も行動しようと思ってくれたり、自分で考えるようになってくれたらいい」という。いまのところ評判は上々らしい。