炭素繊維強化プラスチック(CFRP; Carbon Fiber Reinforced Plastics)製品の資源循環をISO国際規格で後押し
記事配信日:
2025/01/16 14:00 提供元:共同通信PRワイヤー
リサイクル炭素繊維の品質の適正な評価方法を開発
ポイント
・ 炭素繊維のリサイクル利用で重要となる繊維引張強度分布と繊維/樹脂界面せん断強度の適正な評価方法を開発
・ 産総研が開発した繊維引張強度分布と繊維/樹脂界面せん断強度の同時評価方法を国際標準化
・ リサイクル炭素繊維の適正な品質評価基盤技術により炭素繊維強化プラスチック(CFRP)製品の資源循環を促進
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202501142815-O1-Tsm0wJnT】
リサイクル炭素繊維の普及促進のため、リサイクル炭素繊維の繊維引張強度分布と繊維/樹脂界面せん断強度の評価方法を規定した国際規格ISO19350:2025(以下「本規格」という)が発行されました。国立研究開発法人 産業技術総合研究所(以下「産総研」という)は、評価法開発および規格作成のための国際審議の場である作業グループ(WG)の設立に関与し、その中で産総研開発の評価法が採用され、本規格の発行に貢献しました。
これにより、日本のみならず諸外国でのリサイクル炭素繊維を活用した製品の普及を後押し、リサイクル炭素繊維を利用した製品の市場拡大につながることが期待されます。
下線部は【用語解説】参照
社会課題の解決
近年、資源循環の重要性が高まる中、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)のリサイクル技術が開発されてきました。しかし、構造材料であるCFRPは高い耐久性を有するため、分離や解体が極めて難しく、リサイクル炭素繊維は新品の炭素繊維とは性状などが異なります。例えば、リサイクル炭素繊維は、CFRP由来のプラスチック残渣が付着したままのこともあれば、繊維表面が損傷することもあります。また、リサイクルプロセスにより、繊維長さが短くなります。したがって、実際にリサイクル炭素繊維を活用するためには品質の適正な評価が非常に重要です。具体的には、力学的な性能の高い炭素繊維にしっかりと力を受け持たせる観点から、力が伝わった際に繊維が切れないかを判断するのに必要な「繊維引張強度分布」と繊維に力を伝えられるか判断するのに必要な「繊維/樹脂界面せん断強度」の二つが必要な特性と言われています。しかし、リサイクル炭素繊維の状態は新品の炭素繊維と異なることから、既存の新品の炭素繊維用の品質評価手法を適用できませんでした。
この課題を解決するために繊維/樹脂界面せん断強度を評価する方法であったフラグメンテーション試験をもとに改良型フラグメンテーション試験を開発しました。フラグメンテーション試験では繊維の破断が終了した状態を解析するのに対して、本手法では繊維の破断過程の解析も追加することで、リサイクル炭素繊維の繊維引張強度分布と繊維/樹脂界面せん断強度の両方を同時に評価できるようにしたことが新しいポイントです。本手法を用いることでリサイクル炭素繊維の品質の適正な評価ができるようになります。
規格発行までの道のり
産総研は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)「革新的新構造材料等研究開発」の「(27)熱可塑性CFRPの開発及び構造設計・応用加工技術開発」において、2018年度~2020年度にリサイクル炭素繊維の評価技術の開発を進めてきました。
この評価技術開発の成果を基に産総研は、リサイクル炭素繊維を用いた製品の市場の拡大を目指してISO/TC61に本規格のドラフトを提案しました。科学的に裏付けされた手法をもとに完成度の高いドラフトを作成し、各国からの支持を取り付けることができたため、通常よりも短い約2年の審議を経て今回の規格発行となりました。
今後の予定・波及効果
産総研は、本規格以外のリサイクル炭素繊維の評価技術開発も実施してきました。現在、これらの評価手法についても国際規格にするため日本から提案する準備をしています。日本が強みを有している炭素繊維が新品だけでなく、リサイクルの分野でも強くなるように日本主導でリサイクル炭素繊維の国際標準化を進めていく予定です。
【表:https://kyodonewsprwire.jp/prwfile/release/M107968/202501142815/_prw_PT1fl_Fi3U6OXm.png】
関連する論文
掲載誌:Carbon
タイトル:Simultaneous evaluation of tensile strength and interfacial shear strength of short length carbon fibers using fragmentation test
著者:Yoshiki SUGIMOTO, Daisuke SHIMAMOTO, Yusuke IMAI, Yuji HOTTA
DOI:10.1016/j.carbon.2019.12.089
予算制度
NEDO委託事業「革新的新構造材料等研究開発」
(27)熱可塑性CFRPの開発及び構造設計・応用加工技術の開発(2018~2020年度)
経産省委託事業「リサイクル炭素繊維の利用・評価手法に関する国際動向調査」(2020~2021年度)
経産省委託事業「リサイクル炭素繊維の繊維強度と界面接着性評価に関する国際標準化」(2022~2023年度)
用語解説
リサイクル炭素繊維
CFRPからプラスチック(樹脂)を除去して回収して得られる炭素繊維のことです。樹脂を除去する方法としては熱で樹脂を分解する方法や溶液を用いて樹脂を溶かす方法があります。
繊維引張強度分布
引張強度分布はCFRPの特性を予測するために必要な品質の一つです。炭素繊維はガラスのような脆性材料でわずかな欠陥で強度が変化してしまう材料です。そのため、繊維引張強度にばらつきがあり、繊維引張強度分布で品質を評価するのが適切です。
繊維/樹脂界面せん断強度
CFRPの中の炭素繊維に効率的に力を伝えることができれば、性能の高いCFRPを製造することができます。そのためには繊維/樹脂がしっかりと接着している必要があります。繊維/樹脂界面せん断強度はその接着性を表す尺度でCFRPの特性を予測するために必要な品質の一つです。
炭素繊維強化プラスチック(CFRP)
炭素繊維強化プラスチック(CFRP)はプラスチックと炭素繊維を組み合わせた軽量構造複合材料です。宇宙航空分野をはじめとして、風力発電などのエネルギー分野に至るまで幅広い分野で使用されており、今後も需要が増大することが期待されています。
フラグメンテーション試験
炭素繊維を埋め込んだプラスチック(樹脂)フィルムを引っ張った際に埋め込んだ繊維が破断して短くなります。この短くなった繊維の平均長さと繊維の引張強度から繊維/樹脂界面せん断強度を評価する試験です。
プレスリリースURL
https://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2025/pr20250116_2/pr20250116_2.html
ポイント
・ 炭素繊維のリサイクル利用で重要となる繊維引張強度分布と繊維/樹脂界面せん断強度の適正な評価方法を開発
・ 産総研が開発した繊維引張強度分布と繊維/樹脂界面せん断強度の同時評価方法を国際標準化
・ リサイクル炭素繊維の適正な品質評価基盤技術により炭素繊維強化プラスチック(CFRP)製品の資源循環を促進
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202501142815-O1-Tsm0wJnT】
リサイクル炭素繊維の普及促進のため、リサイクル炭素繊維の繊維引張強度分布と繊維/樹脂界面せん断強度の評価方法を規定した国際規格ISO19350:2025(以下「本規格」という)が発行されました。国立研究開発法人 産業技術総合研究所(以下「産総研」という)は、評価法開発および規格作成のための国際審議の場である作業グループ(WG)の設立に関与し、その中で産総研開発の評価法が採用され、本規格の発行に貢献しました。
これにより、日本のみならず諸外国でのリサイクル炭素繊維を活用した製品の普及を後押し、リサイクル炭素繊維を利用した製品の市場拡大につながることが期待されます。
下線部は【用語解説】参照
社会課題の解決
近年、資源循環の重要性が高まる中、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)のリサイクル技術が開発されてきました。しかし、構造材料であるCFRPは高い耐久性を有するため、分離や解体が極めて難しく、リサイクル炭素繊維は新品の炭素繊維とは性状などが異なります。例えば、リサイクル炭素繊維は、CFRP由来のプラスチック残渣が付着したままのこともあれば、繊維表面が損傷することもあります。また、リサイクルプロセスにより、繊維長さが短くなります。したがって、実際にリサイクル炭素繊維を活用するためには品質の適正な評価が非常に重要です。具体的には、力学的な性能の高い炭素繊維にしっかりと力を受け持たせる観点から、力が伝わった際に繊維が切れないかを判断するのに必要な「繊維引張強度分布」と繊維に力を伝えられるか判断するのに必要な「繊維/樹脂界面せん断強度」の二つが必要な特性と言われています。しかし、リサイクル炭素繊維の状態は新品の炭素繊維と異なることから、既存の新品の炭素繊維用の品質評価手法を適用できませんでした。
この課題を解決するために繊維/樹脂界面せん断強度を評価する方法であったフラグメンテーション試験をもとに改良型フラグメンテーション試験を開発しました。フラグメンテーション試験では繊維の破断が終了した状態を解析するのに対して、本手法では繊維の破断過程の解析も追加することで、リサイクル炭素繊維の繊維引張強度分布と繊維/樹脂界面せん断強度の両方を同時に評価できるようにしたことが新しいポイントです。本手法を用いることでリサイクル炭素繊維の品質の適正な評価ができるようになります。
規格発行までの道のり
産総研は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)「革新的新構造材料等研究開発」の「(27)熱可塑性CFRPの開発及び構造設計・応用加工技術開発」において、2018年度~2020年度にリサイクル炭素繊維の評価技術の開発を進めてきました。
この評価技術開発の成果を基に産総研は、リサイクル炭素繊維を用いた製品の市場の拡大を目指してISO/TC61に本規格のドラフトを提案しました。科学的に裏付けされた手法をもとに完成度の高いドラフトを作成し、各国からの支持を取り付けることができたため、通常よりも短い約2年の審議を経て今回の規格発行となりました。
今後の予定・波及効果
産総研は、本規格以外のリサイクル炭素繊維の評価技術開発も実施してきました。現在、これらの評価手法についても国際規格にするため日本から提案する準備をしています。日本が強みを有している炭素繊維が新品だけでなく、リサイクルの分野でも強くなるように日本主導でリサイクル炭素繊維の国際標準化を進めていく予定です。
【表:https://kyodonewsprwire.jp/prwfile/release/M107968/202501142815/_prw_PT1fl_Fi3U6OXm.png】
関連する論文
掲載誌:Carbon
タイトル:Simultaneous evaluation of tensile strength and interfacial shear strength of short length carbon fibers using fragmentation test
著者:Yoshiki SUGIMOTO, Daisuke SHIMAMOTO, Yusuke IMAI, Yuji HOTTA
DOI:10.1016/j.carbon.2019.12.089
予算制度
NEDO委託事業「革新的新構造材料等研究開発」
(27)熱可塑性CFRPの開発及び構造設計・応用加工技術の開発(2018~2020年度)
経産省委託事業「リサイクル炭素繊維の利用・評価手法に関する国際動向調査」(2020~2021年度)
経産省委託事業「リサイクル炭素繊維の繊維強度と界面接着性評価に関する国際標準化」(2022~2023年度)
用語解説
リサイクル炭素繊維
CFRPからプラスチック(樹脂)を除去して回収して得られる炭素繊維のことです。樹脂を除去する方法としては熱で樹脂を分解する方法や溶液を用いて樹脂を溶かす方法があります。
繊維引張強度分布
引張強度分布はCFRPの特性を予測するために必要な品質の一つです。炭素繊維はガラスのような脆性材料でわずかな欠陥で強度が変化してしまう材料です。そのため、繊維引張強度にばらつきがあり、繊維引張強度分布で品質を評価するのが適切です。
繊維/樹脂界面せん断強度
CFRPの中の炭素繊維に効率的に力を伝えることができれば、性能の高いCFRPを製造することができます。そのためには繊維/樹脂がしっかりと接着している必要があります。繊維/樹脂界面せん断強度はその接着性を表す尺度でCFRPの特性を予測するために必要な品質の一つです。
炭素繊維強化プラスチック(CFRP)
炭素繊維強化プラスチック(CFRP)はプラスチックと炭素繊維を組み合わせた軽量構造複合材料です。宇宙航空分野をはじめとして、風力発電などのエネルギー分野に至るまで幅広い分野で使用されており、今後も需要が増大することが期待されています。
フラグメンテーション試験
炭素繊維を埋め込んだプラスチック(樹脂)フィルムを引っ張った際に埋め込んだ繊維が破断して短くなります。この短くなった繊維の平均長さと繊維の引張強度から繊維/樹脂界面せん断強度を評価する試験です。
プレスリリースURL
https://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2025/pr20250116_2/pr20250116_2.html
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