新たな政府統計の分析が明らかにした「裁量労働制」の労働環境への影響

新たな政府統計の分析が明らかにした「裁量労働制」の労働環境への影響2024年12月19日
東京大学公共政策大学院
早稲田大学

新たな政府統計の分析が明らかにした「裁量労働制」の労働環境への影響

詳細は早稲田大学HPをご覧ください。

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要旨
東京大学公共政策大学院の川口大司(かわぐちだいじ)教授、早稲田大学教育・総合科学学術院の黒田祥子(くろださちこ)教授らの研究グループは、日本の労働基準法に基づく裁量労働制※1が、労働者の労働時間、賃金、健康、満足度に与える影響を分析しました。その結果、労働者が業務に対してどの程度の裁量※2を持つかが、制度の効果を大きく左右することが明らかになりました。

本研究成果は、カリフォルニア大学バークレー校労働雇用研究所が発行する『Industrial Relations』誌に2024年11月8日 (金) (現地時間) に掲載されました。

[論文情報]
論文名:Exemption and work environment
DOI:https://doi.org/10.1111/irel.12382

サーベイ設計について
本研究では、厚生労働省が2019年11月から12月にかけて実施した全国規模の「裁量労働制実態調査」を活用しました。この調査は、裁量労働制適用者と非適用者を比較するために設計され、約7万人の労働者を対象に、労働時間、賃金、健康状態※3、満足度※4などに関する詳細なデータを収集したものです。調査対象には、裁量労働制を採用している事業所と、採用していないが類似の業務を行う従業員を雇用する事業所が含まれています。

今回の研究で実現しようとしたこと
本研究では、厚労省が実施した初の大規模な裁量労働制に関する調査データを利用し、裁量労働制の適用が労働環境に与える影響を分析しました。
分析に当たっては、労働者がどの程度自律的に業務を遂行できるかが重要な要因となりますが、裁量の大きさを以下の5つの側面で測定しました:
 1.基本的業務内容(目標や締切)の決定方法
 2.業務内容や量の決定方法
 3.進捗報告の頻度
 4.業務実施方法や時間配分の決定方法
 5.作業開始および終了時間の決定方法

これらの基準に基づき、自己決定の割合が高い労働者を「裁量が高い」と定義しました。

主な結果
1.労働時間と賃金
裁量労働制非適用者の平均労働時間は43.9時間/週で、適用者は週2時間(約3%)多い45.9時間/週働いていました。(図1)
一方で、裁量労働制適用者の年収は非適用者より7.8%高いことが分かりました。(図2)

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(単位は100万円、自然対数軸)

2.健康状態
裁量が高い労働者では健康状態の悪化は見られませんでしたが、裁量が低い労働者では長時間労働が健康に悪影響を与える傾向がありました。

3.満足度
裁量が高い労働者は満足度が向上する一方、裁量が低い労働者では満足度が低下しました。

本研究の政策的示唆
裁量労働制を適用する際には、労働者が十分な裁量を持てる環境を整備することが重要です。裁量を持たない労働者への適用は、長時間労働や健康への悪影響を招く可能性があるため、慎重な対応が求められます。

研究者からのコメント
「本研究の結果は、裁量労働制が必ずしも労働環境の悪化をもたらすものではないことを明らかにしています。一方で、労働者の裁量が確保できないにも関わらず裁量労働制を拡大することにはリスクが伴うことも示しています。」(川口教授)

「今後の政策立案においては、裁量が確保された労働者に限定したうえで裁量労働制の適用が拡大できる環境をどのように担保するか手続きに関する慎重な議論が必要だと思います。」(黒田教授)

用語集
※1裁量労働制:
労働時間を厳密に記録するのではなく、一定の労働時間を「みなし時間」として設定し、労働者に業務遂行の裁量を認める制度。

※2 裁量:
労働者が自らの判断で業務内容や勤務時間を決定できる自由度を指します。本研究では業務の5つの側面に基づいて評価。

※3 健康状態:
労働者が自身の身体的および精神的健康について主観的に評価したもの。

※4 満足度:
労働者が職務に対して感じる満足感を主観的に評価したもの。

論文情報
雑誌名:Industrial Relations: A Journal of Economy and Society
論文名:Exemption and work environment
執筆者名:Yutaro Izumi, Daiji Kawaguchi, Sachiko Kuroda, Taiga Tsubota
掲載日時 (現地時間):2024年11月8日 (金)
DOI:https://doi.org/10.1111/irel.12382

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