人間の生産活動によって、日々いろいろな製品や製造物が生み出されている。この生産工程にかかわる産業を『動脈産業』とよんでいる。
では、『静脈産業』という言葉はご存じだろうか。
製品は使用され、消費され、やがて廃棄物(ゴミ)になる。その廃棄物をふたたび製品の原料に循環させる産業を静脈産業とよんでいる。
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ある日、静脈産業の経営者に在日韓国・朝鮮人が多いことに気がついた。そしてなぜ、東北地方に有力企業があるのか? 劉庭秀教授の調査がはじまった(写真 菊地健志、以下同)
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ブルーの綺麗なガラスのコップは、廃車のガラスから再生した。手前の黒の財布は、廃車の革シートから再生した。静脈産業から生み出された製品だ
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劉庭秀氏は韓国では、2009年から「韓国自動車資源循環協会」の海外技術委員、2015年から「韓国資源リサイクリング学会」の理事。2016年に、東北大学大学院国際文化研究科の教授に就任した
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左は、2006年に韓国で出版された著書『ごみから見える世の中』。日本の環境省にあたる韓国環境部の「優秀環境図書」に選定された。右は、2017年にイギリス王立化学会が発刊した英文の学術書、第8章を担当執筆した
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調査が終わってから、静脈産業の経営者たちは「同胞だ」と告げることが多い。このテーマは、祖国出身の劉庭秀教授にしかできない仕事になるだろう
リサイクルの経営者に「在日」が多いのは
『静脈産業』ですぐにイメージできるのはスクラップなどのリサイクル業だが、リユースや焼却によってエネルギー回収する「サーマルリサイクル」、修理して使うリペア、最終処分の「埋立」をふくめると範囲は広い。
素材は、鉄、非鉄金属、プラスチック、ペットボトル、生ごみ、古紙など、あらゆるものが対象になる。
環境産業の中でも、『静脈産業』は必要不可欠でかつ重要な位置を占めている。世間がほとんど注目しなかった頃から、この分野を研究してきたのが、東北大学大学院国際文化研究科の劉庭秀(ユ・ジョンス)教授だ。
韓国の弘益(ホンイク)大学で都市計画を学び、筑波大学大学院では社会工学を専攻した。研究者以前はエンジニアリングや食品リサイクルの会社で働いた。
ゴミを積んだトラックを運転した経験もあり、廃棄物の現場をよく知る研究者だ。
2000年に東北大学大学院国際文化研究科の助教授(当時)。2016年に同大学大学院教授に就任。研究を続けているうちに、あることに気がついた。
それは静脈産業の経営者に在日韓国・朝鮮人が多いことだった。さらに東北地方に静脈産業の有力企業が存在することも気になった。
経営者の名前は日本人名(通名)なので、調査前にはわからない。しかし調査を終えたあと先方の経営者から連絡があって、同胞であることを告げられるケースが何度もあった。彼らから話を聞き、調査に協力してもらう中で、企業や経営者にどういう歴史があったのか。静脈産業をはじめた背景は何なのか。しだいに興味が広がっていった。