アゴラ研究所の主催するシンポジウム「第6回アゴラシンポジウム 成長の可能性に満ちる農業‐新技術と改革は日本再生の切り札になるか」が2016年12月20日、都内で行われた。
日本の農業の将来性をめぐり、自民党の石破茂衆院議員と消費者団体「食のコミュニケーション円卓会議」代表の市川まりこ氏、北海道の農家・小野寺靖氏、毎日新聞社の小島正美編集委員、アゴラ研究所の池田信夫所長が議論した。
石破氏「農業、漁業、林業、サービス業を伸ばさないでどうするのか」
農水族の石破氏は1992~3年の宮澤改造内閣で農林水産政務次官、2000年の第2次森内閣で農林水産総括政務次官(現在は農林水産副大臣にあたる)、2008~9年の麻生太郎内閣で農林水産大臣を務めた。2014年9月から2016年8月までの第2、3次安倍内閣では、地方創生・国家戦略特区担当大臣の任を全うした。石破氏はシンポジウムの冒頭、「農業による日本の活性化~政治家の立場から」の講演を行った。
「これから日本の人口はおそろしく減るのです。地方では既に減っており、東京も2020年にピークを迎え、人類が経験したことのない超高齢化社会に入ります」
石破氏はそう語り、「再来年で明治150年になりますが、日本人は50年に1度、国をリセットしてきました。1つは、1868年の明治維新から第1次大戦までの50年間。敗戦と経済成長を経て、日本のGNPが世界第2位になったのが明治100年にあたる1968年でした。ですが1968年から今日までの50年間、我々は国をリセットしてきたでしょうか。過去の遺産を食いつぶし、次の時代にツケが回る形で生きてきただけで、このままでは多分、この国に将来はありません」と続けた。
石破氏によると、昭和40年代半ばから50年代半ばまでの間、地方では公共事業と企業誘致が盛んだった。道路や下水道、空港の整備が進み、雇用と所得が生まれた。だが「それと同じことはもうできません」と言い放ち、
「地方の雇用と所得を維持するのに、これまで最大限に潜在力を発揮してこなかった農業、漁業、林業、サービス業を伸ばさないでどうするのですか」
と強調した。
議題は「遺伝子組み換え技術の実用化」へ
石破氏の講演終了後、市川氏と小野寺氏、小島氏、池田氏も加えたパネルディスカッション「成長の可能性に満ちる農業‐新技術と改革は日本再生の切り札になるか」が行われ、特に日本農業の成長可能性に関連する技術として、遺伝子組み換え作物に焦点があてられた。
に「食のコミュニケーション円卓会議」代表の市川氏は
「農業改革に必要な技術革新の1つに、遺伝子組み換えがあります」
と、石破氏の講演内容に触れた。「私は消費者の立場から、遺伝子組み換え技術を使った農作物の研究・開発や、社会での実用化に期待しています」と話した上で、
「ただ反対している人もおり、そうした人の声ばかりが政治家の耳に届いているように思います」
と疑問を呈した。石破氏は
「消費者の趣向に合い、健康に良く、遺伝子学的に影響がないことの挙証責任は政府にあります。マスコミの議論にさらされて、一般の方に『大丈夫』とご理解いただくためのシステムを作らなければいけません」
と述べていた。
北海道北見市の農家・小野寺氏は、若者の農業従事者が減り、後継者不足に悩まされている実態を明かした上で、
「畑には草が生えます。遺伝子組み換え技術を使って、雑草を取り除く作業を合理化したいのです。先進国の日本にできないはずがありません。何百万トンの遺伝子組み換え作物が輸入されている現実を見てください。輸入している人は当然、賛成しているでしょうから。さらに(石破)先生にお願いしたいのは、遺伝子組み換え作物の栽培試験の実施です」
と話した。池田氏が「農水省は酪農に使う飼料として遺伝子組み換え作物を認可しているのに、栽培できないのはどうなのでしょうか」と掘り下げると、石破氏は
「それをやることで不利益を被る人がいるからではないでしょうか」
とした上で、「こういうのはおかしくないか、というのは議会の場で直していかなければいけない。それは主権者、有権者の権利であり、応えるのが行政の責任だと思います」と回答した。
毎日新聞編集委員の小島氏はメディア関係者の立場で
「法的には許されていますので、栽培しようとスクラムを組めば、理解してもらえるでしょう。アカデミックな世界では、遺伝子組み換え作物のメリットが多いと分かってきているので、色んな議論をすれば1人くらい増えたっていいじゃないかとなるのではないか。あとは小野田さんがやるかどうかですが、メディアも国会議員も似ているところがあって、市民運動に弱い。そこをクリアできれば戦えると思います」
と話した。