今回のテーマは「ギャラクシーノート7騒動の影響」です。サムスン電子のスマートフォン、ギャラクシーノート7は火を噴くなどの事故が多発し、国内外で飛行機の機内持ち込みが禁止されるなど、世界中で大騒ぎに。当然ながら、同社は回収、生産・販売中止で大きな損失を被ることになりました。
この騒動は、韓国と日本の企業にどのような影響があるのでしょうか。
韓国で長く続く就職氷河期
韓国では、今回の騒動以前から就職氷河期が続いています。「現代」など各財閥グループの輸出不振、観光の低迷、政府の経済政策の失敗などが積み重なって、経済は低迷し、高い若年失業率を招いています。ちょっと前ですが、産経新聞2015年4月1日付記事には、
「韓国統計庁発表の雇用動向は、2月の失業率は4.6%で、前年同月に比べて0.1ポイント悪化した。聯合ニュースによると、2010年2月(4.9%)以来、5年ぶりの高さだった。さらに青年層(15~29歳)の失業率は11.1%にものぼった。過去を振り返ると、この水準はリーマンショックによる景気低迷期を遡り、アジア通貨危機当時の1999年7月の11.5%に次ぐ悪さだった。『年間40万人に達する大学卒業者があふれているが、世界的な景気低迷で収益が減った大企業は11万人程度しか採用できない』。中央日報(日本語電子版)は新卒者の労働市場について、有識者の分析をこう報道した」
と、あります。韓国の場合、財閥系企業と中小企業の賃金格差が3~4倍程度ある、とされています。付言すれば、正規雇用が多いのは財閥企業、非正規雇用が多いのは中小企業。
「製造業中小企業の2014年平均年俸は2750万ウォンだ。サムスン電子は非正規職である契約職を含んだ平均年俸が1億100万ウォンで、現代自動車は9680万ウォンだ。金融危機から6年間に経済は220.9%成長したが、サムスン電子の実質賃金は41.5%上がり、現代自動車は23.9%上がった。しかし製造業中小企業の実質賃金は7.4%の増加にとどまった。サムスン電子や現代自動車の労働者が高い賃金を得ること自体は問題でないと言える。しかし多くの中小企業が大企業の下請け企業として従属的な関係にあるという事実を考慮すると、4倍という賃金格差は経済論理で正当化し難い。結局大企業の不公正な取引が原因だ。(中略)経済成長以上の賃金上昇と雇用安定を享受する大企業の正規職労働者は全労働者の20%にもならない。労働者の80%は賃金差別を受け、雇用が不安定で、成長の恩恵から疎外されている」(韓国・中央日報2015年7月15日)
部品供給の日本企業はどうなる
このようなボロボロの経済状況のところに、今回のギャラクシーノート7騒動。その少し前には韓国の海運最大手、韓進海運が経営破綻をしました。新卒一括採用のある韓国でも、学生の新卒就職については、どう考えても悪影響であり、好転する見込みは全くありません。
ノート7の生産・販売中止は、サムスン電子だけでなく、関連の部品メーカーにとっても大打撃です。新卒の採用中止どころか、倒産するところが出てきてもおかしくはありません。
ノート7には「村田製作所やTDK、アルプス電気などがサムスンのスマホ向けに部品を供給しているとみられる」(日本経済新聞2016年9月3日付朝刊)。
こうした日本企業は、どうでしょうか。
結論から言えば、新卒採用に若干の影響は出るかもしれません。が、ノート7騒動がきっかけとなって日本も就職氷河期に転じる、という可能性は相当低いものと思われます。
と言いますのも、日本経済新聞記事に出た、村田製作所やTDKなどは、いずれも世界トップクラスの部品メーカーです。この「世界トップクラス」というところがポイント。その高い技術力ゆえに、スマホであれば、アメリカでも韓国でも、どの国のメーカーでも軽視できません。
サムスンのノート7が売れなくても、その分アイフォン7が売れれば、日本の部品メーカーは利益を出すことができます。もしアイフォンの売上げが鈍れば、日本勢なり、欧州勢なりと取引すればいいのです。これは、部品メーカー大手だけでなく、中堅どころや、関連の機械系商社も同じです。
日本は、大企業と中小企業で賃金格差があるとは言え、韓国ほどにはひどくありません。また、新卒採用については中小企業でも正規雇用での採用が基本となります。
以上の点から、ギャラクシーノート7騒動は、日本の新卒採用に、ほぼ影響がないものと思われます。(石渡嶺司)