本のタイトルや著者名、ジャンルも版元も全て「ヒミツ」――。手書きの覆面カバーで表紙をすっぽり覆い隠し、あえて「どんな本か」を完全に伏せた謎の文庫本『文庫X』が売れ行きを伸ばしている。発信地の「さわや書店フェザン店」(盛岡市)では、1か月余りで1000冊超を売る驚異的なヒットに。取扱店舗も広がっており、考案者も「予想外の反響」と首をひねるほどだ。
「普段は手に取らない本だったが、出会えてよかった」
同店の書店員、長江貴士さん(33)が考案した。2016年7月下旬から店頭に並んだ『文庫X』、カバーには、
「申し訳ありません。僕にはこの本をどう勧めたらいいか分かりませんでした。どうやったら『面白い』『魅力的だ』と思ってもらえるのか、思いつきませんでした。だからこうして、タイトルを隠して売ることに決めました......」
と始まる長江さんの「メッセージ」が手書きで切々と綴られている。こうした書籍の姿からかろうじて分かるのは、税込810円という値段と「小説ではない」という情報だけ。本はビニールで包装されており、購入しないかぎり中身を確認することができない。
長江さんはJ-CASTニュースの取材に、
「人があまり手に取らないジャンルだと思うので、抵抗感をなくすために本の情報を隠すことにしました」
と話した。購入者からは「普段は手に取らない本だったが、出会えてよかった」といった声が寄せられているといい、「こちらが望んだ通りの反応で嬉しい」と素直に喜びを表している。
『文庫X』は、販売開始から2か月近くになる現在も全国からの注文が止まない状況だという。取り扱い店舗も全国に広がり、9月14日時点で25都道府県90以上の書店に置かれている。
ネット上にも中身を「ネタバレ」にする書き込みはほぼ見られない。いったいどんな本なのか、記者も長江さんに尋ねてみたが、
「それは言えません。ですが、読んでいただければ必ず心に残る本だと思います」
ときっぱり断られた。なお、万一『文庫X』の「中身」をすでに持っていた場合は、「返金に応じます」とのことだ。