ファストフードのバイトの時給をアメリカ並みに上げろと訴えるデモが日本でも起こっているのですが、私はこれを見るたびに、「日本はそういうことを要求できる国じゃなくなっちゃったんだよな」と思います。
日本のバイト時給がアメリカよりも低いのは、日本がアメリカよりも貧乏な国だからです。
貧しい国は給料が低い、当たり前の話
例えば、私が住んでいるカンボジア。この国のケンタッキーフライドチキンでバイトをすると、時給は0.5ドル(60円)程度です。
「まあ、物価も安いから...」と言われるかもしれませんが、この国でこういうバイトをしている大学生の生活は、日本のワンルームマンションくらいの大きさの部屋を2、3人でシェア。シャワーはよくて水シャワー、多くの場合はシャワーなし。持っているのはバイクとスマホと扇風機のみ。といったところが普通です。
日本基準で言ったら、「極貧」レベルでしょう。
でも、そう聞いて「カンボジアのファストフードのバイト時給を日本並みに上げろ」と思いますか?
なぜ思わないかというと、カンボジアは日本より貧しいという認識があるからだと思います。貧しい国は給料が低く、生活も厳しいのは当たり前だからです。
経済的豊かさの指標である1人当たりのGDPを見てみましょう。
2014年のデータで見ると、日本は約3万6000ドル。それに対し、カンボジアは世界ランキング160位の1080ドル(IMFのWorld Economic Outlook Databases 2015年10月版から)。
30分の1以下の貧しさなので、給料が安くても、生活レベルが低くても当然と言わざるを得ません。
忘れられない豊かだったあのころ
さて、アメリカと日本についても考えてみましょう。
アメリカは世界ランキング11位の約5万4000ドル、それに対し日本は、27位の約3万6000ドルです。
この数字で分かるとおり、日本のファストフードの時給がアメリカより低いのは、日本の方がアメリカよりも貧しいからなのです。
では、なぜ日本人はアメリカよりも時給が低いことに抵抗を感じるのかを考えてみましょう。それは、時計の針を20年前に戻してみればわかります。
1995年の日本の1人当たりのGDPはランキング3位。10位のアメリカよりも上でした。
1991年から2001年にかけては、ほぼ全ての年でトップ5に入っていた。当時は世界でも屈指の豊かな国だったのです。
この頃の日本は、同じ職種の仕事をしていれば世界でもトップクラスの給料をもらえたでしょうし、トップクラスの豊かな生活ができたのでしょう。その想い出が27位に下がった今でも忘れられないのです。
つまり、バイトの時給をアメリカ並みにするためには、たぶんデモをするだけでは不可能だと思います。この国が経済成長し、その恩恵を受けて時給が上がるのが他人頼み的な方法としてはベストなのですが、人口が減少し高齢化していく国ではなかなか難しそうです。
結局、「人と違うことをして、自分を人と違うポジションに置く」という、いつも通りの結論に落ち着くわけです。
下りエスカレーターの国で生きていくには、精神的にタフでなければなりませんね。(森山たつを)