同一労働同一賃金を巡る議論が与野党間で盛り上がっている。だが与野党の主張を聞いていると、どうも人によって『同一労働同一賃金』の中身は随分と違うようだ。
まず、民主党の主張している同一労働同一賃金だが、彼らが言っているのは「基本的に非正規雇用を正社員化させれば同じ処遇になるだろう」程度の話であって、当然ながらそんなことは不可能だ。恐らく民主党としては、支持基盤である連合の既得権さえ守れれば、「後は野となれ山となれ」なのだろうが、こんなところからも、同党が多くの有権者から見捨てられている理由がよくわかる。
一方の自民党も「雇用形態に関わらず誰でも活躍できる枠組み作り」という方向性自体は正しいが、具体的な改革の進め方についてはまだ固めきれていないように見える。というわけで、同一労働同一賃金とはどのように成立するものなのか。そして、その基準はどうあるべきかについてまとめておこう。
労働市場の流動化が大前提
従来、一般的な日本企業では、正社員の賃金は職能給と呼ばれる実質的な年功給で決められてきた。初任給から少しずつ昇給し、ベテランになってから若いころ頑張ったご褒美を貰える仕組みだ。一方の非正規雇用は、担当する仕事に値札が付く職務給と呼ばれるものが一般的だ。コンビニのレジでは、高校生のバイトと中高年のフリーターが同じ時給で仕事をしている光景も珍しくないが、あれがまさに職務給の典型だ。
前者は終身雇用を前提としたもので、どれだけ生産性があるか、単年度でいくらもらえるのかといった点は曖昧だが、生涯かけて帳尻が合うようにはなっている(一応)。後者は流動性が高いから、きっちり仕事分はキャッシュで払いますよ、という仕組みである。
この2つの仕組みを併存したままで「同じ仕事にたいして同じ賃金を払え」というのはまず不可能だ。そもそも正社員の側には、個人に仕事の対価としていくら支払っているかという基準すらない。たとえ1000万円払っていたとしても、それは彼がこなしている担当業務の対価ではなく、若いころに全国の支店を転々として汗を流したことへのご褒美かもしれないのだから。
よって、同一労働同一賃金の導入には、2つの異なる基準を職務給の方に統一する必要がある。と言うと、ものすごい大改革を想像するかもしれないが、それ自体は解雇規制を緩和さえすればスムーズに実現するだろう。というのも、40代になって課長になり「さあこれから若いころの頑張りに報いてもらうぞ」となった直後に解雇されるリスクがあるなら、誰も初任給から滅私奉公なんてしないからだ。
すると、20代も50代も勤続年数ではなく、現在の仕事内容に応じてきっちり現金払いで評価される仕組みに速やかに切り替えが進むことになるはず。そこでようやく、正社員と非正規雇用労働者は同じ土俵に上がることになる。政府が労働市場の流動化と同一労働同一賃金を同じタイミングで打ち出してきたのは、本来はこうした事情を踏まえてのものだったはずだ。