若者が結婚できずに少子化が進む理由の筆頭は、どの調査をみても「経済的な理由」です。収入が不安定、子供が出来てもこの収入では育てられない、子供が出来て彼女が仕事をやめたら生活が破綻する。そういった意見が大半でしょう。
年収350万では到底、結婚・子育てはできない――たしかにそうかもしれません。そんな「気分」になるのは、とても良く分かります。
子供一人に費用3000万円?6000万円超のケースも
たいがいの子育てサイトをみても「子供一人にかかる費用として3000万」といった数字がでています。たとえば、「子ども応援便りweb版」がAIU保険会社の調査を引用しています。
公立幼稚園、公立中高、国公立大学というコースですら、教育費の合計が1345万円。生活費とあわせて、2985万円とでています。そしてこれが「最低額の見積もり」なのです。
私立理系コース(中学・高校も私立)で3819万円、医学部コース(同)は6064万円です。
これをみて、若者は、戦々恐々というか、戦意喪失するにきまっています。たとえ年収が1000万円あったところで、これを聞いたらさすがに子供をつくるのは慎重になろうと思うのが正常な感覚です。つまり、経済的な理由で子供をうまない夫婦が多いのは、極、正常なことなのです。
さて、では「異常」なのは何でしょうか?
年収でしょうか、子育て費用でしょうか?
わたしは子育て費用だと思います。
要するにこれは、日本の高度成長期時代のモデルであり、今ではエリートコースです。もはやだれもがこれに乗れるわけがありません。年収1000万円以上のひとがこれらのコースで子供を育てればいいのであって、他の人がこれで育てられるわけがありません。
終戦直後の感覚を取り戻すべきだ
心理学の理論に、アンカリング効果というのがあります。子育て一式3000万円。これがひとつの指標(アンカー)となってしまい、発想がここから抜けだせません。
不況下においても、結婚式の相場は平均354.9万円、などと煽るメディア・雑誌がある限り、それがひとつのアンカリングポイントとなってしまいます。
そして、若者は結婚なんて到底無理でしょ、と考えます。不当に釣り上げられたアンカリングポイントを基準にして、自分たちの現状とのギャップを考えてしまって絶望するのです。
しかし終戦直後などは、日本人はもっと貧乏で、子供だって5人も6人もいました。それでも、子供は育てられます。というか育ちます。生き物ですから、食べ物さえあれば育ちます。
現在でもある種のカップルは、すぐに結婚して子供をたくさんつくります。それは、彼らの頭の中にはこのようなアンカリングポイントが存在しないからです。
年収350万円のひとが子供を持つには、発想の転換が必要です。塾や習い事もなし、大学はいかないか、ネットでタダのもので学ぶ。大企業に入ることは諦める。単に子供が育てばよい。それで満足する。それでも子供を持つことの喜びは計り知れないでしょう。
私たちはもう一度、終戦直後の感覚を取り戻すべきです。若者は貧乏になったのですから、貧乏でも子供をうめるように発想を転換していくべきです。
子育て費用3000万と脅して、定職に就けない親は欠陥品であるかのように非難するよりも、年収300万でも子供は育つ、大学にいかなくても子供は死なない、といったことを啓蒙するほうがはるかに有意義でしょう。
国や経済が衰退するというのは、こういうアンカリングポイントを多くの人が不用意に受け入れるということです。(大石哲之)