エステサロン経営のたかの友梨ビューティ・クリニック(以下たかのBC)の運営会社が、従業員に対する残業代の未払い(減額)等に関して労働基準監督署から是正勧告を受けていた問題に関して、女性従業員が厚生労働省に公益通報者保護の申し立てをおこなった件が話題になっています。私はこの話とイメージがダブる、ある経営者を思い出しました。
美容エステ業界は、以前からその職務環境の悪さがいろいろなところで話題になっています。私も数年前に、美容院チェーンのお手伝いを頼まれました。人を介していただいたご相談は、70歳を目前にした女性経営者から1年後の引退を前提として引退後の管理体制の構築をお願いしたいというものでした。
「若い人のわがままを聞いていたらうちの店はつぶれます」
我々チームは、手始めに現場ヒアリングを実施しました。始めてすぐに分かったことは、高度成長期に一人で当社を立ち上げたカリスマに近い創業経営者がイエスマンのベテランスタッフに支えられ、この組織はなんとか回っているという状況でした。
最大の問題点は、20代女性スタッフの定着率の悪さ。明確な評価制度のない薄給、休暇の取りにくさ、加えて営業終了後の自主勉強会を含めた長時間労働に嫌気して辞めて行く者が後を絶ちません。若手スタッフは「ブラック」という言葉こそ使いませんでしたが、「将来のために厳しい修行時代を乗り越えられる人だけが残る」というのが共通した認識で、労働環境としては明らかに問題でした。
カリスマ女性経営者へのあこがれ心が不平不満を吸収し、多くの若手スタッフをギリギリ引きとめている。そんな構図の中で、彼女の引退後の組織としての求心力低下は明らかです。私は、社長引退をにらんだ新体制づくりは何よりもまず労務管理の厳正化を軸とした職場の近代化から着手すべき、と感じました。
女性経営者は私のそんなヒアリング結果に対して、
「若い人のわがままを聞いていたらうちの店はつぶれます。もっと現実的な提案をして欲しい」と、驚くほど労務管理に消極的だったのです。我々はことの重要性を訴え、「法的に言っても問題と言われかねない状況が多々あり、改善は不可欠」とさらに強く主張したのですが、「スタッフから不平不満が出ているわけではないし、最優先課題ではない」と取りあってくれませんでした。