グローバル人材の時代、ノマドの時代……そんな「意識の高い系」の言説がメディアにあふれている。そんな中、著述家で人材コンサルタントの常見陽平氏は、「普通に働け」と訴える。
「普通に働け」とは、「意識の高い系」言説に対する抵抗であり、「まずは目の前の仕事をしよう」ということでもある。普通の会社で普通の会社員として働くことに、夢と希望を見出してはいけないのか。そんな素朴な疑問に、筆者は事実を淡々と語りながら答えていく。
メディアにあふれる「このままだと日本人はダメだ」
――「すごい人になれ!」
こんな脅迫に、疲れていないだろうか。これらは、政治家や経営者、芸能人、スポーツ選手、学者、コンサルタントなどがよく発信するメッセージだ。正直に言うならば、私自身はこの手の脅迫に疲れてしまった。
先ほどの「働き方」の報道ともリンクしているのだが、メディアは「このままだと日本人はダメだ」「世界に通用する日本人になれ」という言説でいっぱいだ。
より具体的に言うならば、次のような、意識の高い言説である。
「グローバル化の時代だ。世界で活躍する力を身につけなくてはならない」
「大企業にしがみついてはいけない。就職先にはベンチャーも視野に入れるべきだ。将来は起業することも検討するべきだ」
「日本人は、社畜化したらダメだ。"就社"ではなく、"就職"を前提に考えるべきだ」
「東大は世界の大学ランキングでベストテンに入っていない。日本の大学に通っている場合ではない」
「ギャップイヤーを導入し、インターンシップやボランティアなどの多様な経験を積むべきだ」
このような意見をメディアで見聞きしたことは一度や二度ではないだろう。言っていることはわからなくもない。ただ、明らかに事実を誤認しているものや、煽り気味のものがある。エリートを前提とした話が広がっているとも感じる。元々の能力・資質が違うのに、社会的地位も違うのに、そんな人の意見がまるで普通のことのように発信される。このこと自体が実に乱暴だ。趣味で野球をやっている人がイチローや松井秀喜と比較されるようなものである。
(常見陽平『普通に働け』イースト新書、22~23頁)
(会社ウォッチ編集部のひとこと)
雇用・労働に関するメディアリテラシーを身につけよう、というのも本書の(裏?)テーマのひとつだ。「脅迫」するかのような言説を繰り返すメディア批判も含まれている。一方で、「複数の情報源に当たる」などメディアとの建設的な付き合い方も提言している。