日経ビジネスオンラインが2013年9月13日に掲載した「40歳過ぎのランニングは『元気の浪費』」という記事がネットで話題になっている。「デキるオトコはみんな走ってる」などと煽るビジネス誌が多い中、「走ることが有害」と主張しているからだ。
編集部のインタビューに答えているのは、がん患者への情報提供サイト「e-クリニック」を運営するほか、「9割の病気は自分で治せる」などの著作を持つ岡本裕医師だ。
「元気な人が走ってるだけ」医師の発言に共感集中
岡本医師は、骨粗しょう症の予防などには「ある程度の負荷をかけるのはいい」が、タイムトライアルに夢中になってやり過ぎるのは「40歳過ぎてやるものじゃない」「体が下り坂に向かっている時に自ら痛めつけるというのは愚の骨頂」と言い切る。
また、「走ったら元気になるんじゃなくて、元気な人が走ってるだけ。元気を浪費してるだけ」と、ランニング好きが聞いたら頭に血が上るような発言もあった。「走る人は寿命が短いというデータも実際あります」と冷や汗が出るようなことも言う。
この記事は、ネットを介してまたたく間に拡散した。反応は「なるほど」と感心したり、「同感」「確かに」と賛意を表しているものが多い。「まさに『健康のためなら死んでもいい!』って奴だね」とランナーを揶揄する書き込みもあった。
一方で「走らないと元気そのものがなくなる」とか「長生きしたくて走ってるんじゃない」など、余計なお世話と言わんばかりの反発の声や、「運動しなきゃ体がたるむが、どっちがいいんだろう」と戸惑うコメントもみられた。
ただし岡本医師も、あらゆる運動がいけないと言っているわけではない。諌めているのは「何でも極端なことはよくない」ということであり、医師の限界を知った上で自分が病気にならない努力を継続的にする「患者リテラシー」が必要と言っているだけである。
身体を動かすことが健康によいと分かっていても、横着でなかなか一歩が踏み出せない人の言い訳として使われるとすると、メッセージを曲解することになるだろう。
55歳から走り出し「マラソンに救われた」作家も
ランニングの効能については、さまざまな角度から検証されている。
日本生活習慣病予防協会のサイトには、ジョギングを習慣的に続けていると寿命が延びるという研究結果が掲載されている。2013年5月に欧州心臓学会が開いた学術会議で発表された報告では、男性は6.2年、女性は5.6年寿命が延びるとされた。ジョギング習慣がある人は、ない人に比べ死亡リスクが男女ともに44%低下するという。
「55歳からのフルマラソン」の著書で知られる作家の江上剛さんも、ランニングの効能を強調している。銀行の破たん処理に共に携わってきた同僚が自殺し、自分も「死んだら楽になれる」という考えが頭をよぎる中、うつ病寸前で「マラソンに救われた」「同じリズムを刻んで走ると、脳が適度に刺激され、心が落ち着いてくる」と振り返る。
一方で、ランニングのスピードを鈍らせるような報告もある。薄毛治療の専門家である脇坂クリニック大阪の脇坂長興院長は、スポーツに懸命になりすぎると、一時的に身体が無酸素運動の状態になり、髪にストレスを与えることになると指摘する。
「髪には、ストレスがない有酸素運動の方が良い。少し長めの距離を、ボケーッと歩いて帰ってくるくらいがちょうどいいんです」
結局は、中高年になって急に激しすぎる運動をするのは健康にはかえって逆効果になるという当たり前のこと。ビジネス雑誌の特集に簡単に煽られる生真面目なビジネスパーソンには、ちょうどよい薬になったのではないだろうか。