ブラック企業を見せしめにしたいなら「証券営業」から始めたらどうか

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   参議院選挙を前に、自民党が提言していた「ブラック企業名の公表」は結局公約に盛り込まれないことが判明して話題になった。労働基準法違反で線引きしていたら、ほとんどすべての企業がブラック扱いされ、しかもその多くが無名の零細企業ばかりで「見せしめ効果」がないと考えたのかもしれない。

   それでも「ブラックな有名大手企業をさらしあげるべきだ」という声があるが、そんなことならワタミやユニクロ以上に疑いようのない「ブラック職種」があるから、そちらを覗いて見たらどうだろう。それは「証券会社の営業」である。

値上がりの見込めない株は「クズ客」に売りつける

「叱責とパワハラの境目は難しい」と言うけれど
「叱責とパワハラの境目は難しい」と言うけれど

   金融業界は、高給と安定性、知名度から就活生に人気である。2013年度の「日経就職人気ランキング」でも、トップ10がすべて金融業界という輝かしい結果となった。

   しかし意外に思われるかもしれないが、リクルート調査による「就職人気企業ランキング」で、証券会社は過去36年間にわたって1度もトップ10入りしたことがない。「超激務」「体育会系気質」「高離職率」として学生にも知られており、入社を前に「証券営業しか内定をもらえなかったのですが…」と強張った顔で相談を受けることもある。

   そのとき私は率直に「顧客が損をしても気にせずに、自社の利益を追求できるか。もしムリなら別の会社を受けなさい」とアドバイスしている。これは大げさではない。私は複数の現役営業マンに取材をし、生の声を聴いている。例えば次のようなコメントだ。

「億以上の資産を持つ顧客は『大切な顧客』、数千万円程度の顧客は『たんなる顧客』、それ以下の数百万、数十万の顧客は『クズ』『ゴミ』と呼んでいた。少額の運用に頭を使うのは時間の無駄だし、手数料も微々たるもの。会社から“とにかく売れ”と言われた値上がりの見込めない株は、『クズ客』に押し付け販売していた」
「(特に辛いのは)相場が下落し、投資してもらった顧客の資産に損失を出してしまう時。今のような先が見えない時に必死に(会社の指示で)商品の乗り換えに応じてもらって、すぐに損失が発生した時は(会社に)憤りを感じる」

   どの証券会社も「お客様第一」を標榜するが、それは表の顔でしかない。多くの現場では日々厳しいノルマに責め立てられ、「自分たちに多額の手数料が入ればいい」といった風潮がはびこっている。

   もちろん、顧客をここまでないがしろにする会社が、従業員を大事にするわけもない。「とにかく精神力がある人でないと絶対にやってはいけない」「何とか耐えたとしても、会社での扱いはヒドイ。日々の叱責は当たり前。成績が悪いと人間扱いされない」というのが、誰の口からも共通して聞かれる実態だ。

ノルマと連帯責任、人格否定の罵倒の日々

   「いや、自分の知っている証券会社の社員は違う」と主張する人もいるだろう。確かに同じ証券会社でも、本部勤めのエリート社員たちは「自分の職場は働きやすい」と言う。

   私が取材した大手証券会社の社員も、本部で「上場支援」や「債券発行支援」に携わっていたが、残業はほとんどなく、労働法を含むコンプライアンスには非常に厳しく、30代前半で年収1,000万円はもらっていると明かした。

   本部勤めは一流大学卒で最初から配属されるか、過酷な営業現場を勝ち抜いて昇格するしかない。しかし昇格するには、現場で次のようなプレッシャーに耐え抜く必要がある。

(1)営業マン個人のノルマへのプレッシャー
売上額や手数料収入のみならず、会社の「推奨銘柄」をどれだけ売ってくるかも重要な指標だ。この銘柄は、顧客の利益より「自社が主幹事になった」など、会社の儲けを優先したものが多い。
(2)連帯責任というプレッシャー
ひとりの営業マンが達成できなければ、その分の数字は支店の他のメンバーが被ることになる。本来は助け合うべきだが、自分のノルマもある中ではなかなか厳しい。
(3)労働時間とサービス残業
多くの営業マンの出社時間は朝6時~7時台。時間外手当の対象にならない朝会議を経て、電話営業や訪問営業、夜の会議。場合によっては、上司との飲み会…と、帰宅時間は大体23時前後だという。
(4)上役からの「ツメ」というプレッシャー
営業マンの多くは月の目標のみならず、日々の訪問件数目標の達成さえも苦労する。そこで毎日の朝会議、夜会議で「なんでできないんだよ!」「お前のせいで進捗遅れてるんだよ!」「だからお前はダメなんだ」「明日はどうやるんだよ!?」「恥ずかしいと思わないのか」など日々否定的な言葉を浴びせかけられる。

追い詰められた社員は「トカゲの尻尾切り」ではないのか

   ノルマが達成できなければ、罵倒されたって当然と思う人もいるかもしれない。しかしこの風土が、結局は顧客を犠牲にすることにつながる。

   例えば最近では、ある大手証券会社の社員が、認知症の女性の投資を不正解約した事件がニュースになった。当該事件に対して会社は社員を非難するコメントを出していたが、本当に個人の責任に帰結する問題なのだろうか。トカゲの尻尾切りではないのか。

   とある口コミサイトには「おばあちゃんに泣かれても売る」と、その非情さを表現する証券会社の女性社員がいた。

   このような証券会社の営業現場は、確かに給与は高いのかもしれないが、「違法」かつ「従業員の尊厳軽視」といった点で、明らかに私の言うところの「真正ブラック」である。しかしユニクロやワタミをブラック企業の代表格と位置づける人たちの中には、

「証券会社に入る奴らは自分で分かってやってるんだから、同情する必要がない」

という論調がある。もしもそれが正しいなら、ユニクロやワタミと何が違うのか。経営者の顔が見えない証券会社は無視し、経営者の顔が見えて絡みやすく叩きやすいユニクロ・ワタミを批判するなら悪しきダブルスタンダードだ。

   歩合制に近い給与体系、一発当たれば大もうけ。だから罵倒されてもクビ同然で追い出されても、身体を壊しても「自己責任」で済まされる。こんなのはおかしい。ここまで違法行為が続出している現状を、放置しておいてよいはずはないのだ。(新田龍)

新田 龍(にった・りょう)
ブラック企業アナリスト。早稲田大学卒業後、ブラック企業ランキングワースト企業で事業企画、営業管理、人事採用を歴任。現在はコンサルティング会社を経営。大企業のブラックな実態を告発し、メディアで労働・就職問題を語る。その他、高校や大学でキャリア教育の教鞭を執り、企業や官公庁における講演、研修、人材育成を通して、地道に働くひとが報われる社会を創っているところ。「人生を無駄にしない会社の選び方」(日本実業出版社)など著書多数。ブログ「ドラゴンの抽斗」。ツイッター@nittaryo
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