大手広告代理店の博報堂は、入社8年目までに3つの異なる職場を計画的に異動させる「多段階キャリア選択制度」を2003年から導入し、若手社員のキャリア支援を行っている。
「自律したプロフェッショナル人材」を育成する過程で、多様な業務経験の機会を提供し、キャリアの幅を広げ、本人の成長を促す目的がある。入社4年目と入社7年目の全社員を対象に計画的に異動させる仕組みだ。
営業からマーケティング、クリエイティブへの異動も
異動先は、人事や人材開発室が社員の適性やキャリアの方向性を見ながら決定。本人の希望と会社の意向を合わせ、総合的に判断をする。
ビジネス環境の変化に伴い、顧客ニーズが多様化するなか、複数の異なる業務経験を積むメリットは大きい。制度運用を推進する人事局・川上雅人氏も「複数のキャリアを持つことで本人の仕事に幅が出ます」とその効果を強調する。
例えばアカウントプロデュース職(営業職)の場合、義理人情に厚い営業スタイルを好むクライアントもいれば、科学的マーケティング手法を望む顧客もいる。同じようなタイプの営業経験だけ積んでいると営業手法が偏り、将来、幅広い顧客対応ができなくなる可能性もある。
ここ数年の動向では、アカウントプロデュース職からストラテジックプラニング職(マーケティング職)へ、またはストラテジックプラニング職からクリエイティブ職へといった、職種間をまたいで幅広いキャリアを望む社員が多くなっている。
「若手のキャリア意識が強くなっており、意識的に職種転換を希望する人が増えている印象です。会社も“キャリアは自分で作っていく”という方針や考え方を伝えています」
このような制度は、キャリア形成には効果がある一方で、現場には負担がかかる。特に能力が高い社員や顧客先から信頼を得ている社員ほど、上司や先輩社員は異動に難色を示しがちだ。しかし川上氏は、発想の転換が必要だと強調する。
「組織全体のことを考えれば、若手の育成に力を入れて、他の職場に送り出すという意識が必要です。その上司のもとにも他部門で教育された若手が来るわけですから。人事としては“各現場で育成に力を入れてもらい組織全体で成長していきましょう”というメッセージを伝えています」